無限対称群、無限環積群、無限ユニタリ群のような帰納極限群を典型とする巨大な群の作用が内包する数学的構造はたいへん興味深い。確率論の視点を導入して表現のもつ統計量としての性格を浮かび上がらせるのが、漸近的表現論の基本的なアイデアである。このようにして表現論のロジックや体系の漸近版モデルを構築し、さらなる深化と展開をはかるのが、本研究の大枠であった。 平成30年度は、ヤング図形集団における極限形状(巨視的プロファイル)の時間発展を解析する研究に主に取り組んだ。これは、対称群の既約表現の分岐則を背景にしてヤング図形の集合上に導かれる連続時刻のランダムウォークを扱う。微視的な時刻とヤング図形の箱数との間に成り立つ適当なバランスのもとで、時空に関するスケール極限をとることにより、大数の法則の帰結として、再スケールされたヤング図形の極限形状の時間発展を表す動的なモデルが得られると予想される。平成27年に研究代表者が出版した論文においてこのモデルの典型的な場合の構成を行い、その後いくつかの進展が見られたが、まだまだ研究を深めるべき点が多い。特に、非可換な構造を有する巨大なランダム系の考察にしばしば有効な自由確率論の概念・手法との関わりを調べることを重視している。平成30年度は、より多くの応用を見込んで、状態の遷移の間の待ち時間の分布を一般化する研究に着手した。このことによって考えている連続時刻ランダムウォークのマルコフ性は崩れるものの、待ち時間分布の多様性は新たな視野をひらくことが期待される。この方面の研究においていくつか手がかりとなる事柄を得ることができ、当面の結果をまとめてプレプリントを作成した。
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