研究課題/領域番号 |
16K05166
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研究機関 | 防衛大学校(総合教育学群、人文社会科学群、応用科学群、電気情報学群及びシステム工学群) |
研究代表者 |
渡辺 文彦 防衛大学校(総合教育学群、人文社会科学群、応用科学群、電気情報学群及びシステム工学群), 総合教育学群, 教授 (20274433)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 非特異臨界点 / オイラー数 / テータ因子 / アーベル曲面 / 対数微分形式 |
研究実績の概要 |
令和2年度は次の定理を得た. 定理:アーベル曲面上にN個の正規交叉テータ因子を置く.このとき,これらのテータ因子に沿って無限分岐する乗法的函数の非特異臨界点の個数は,アーベル曲面からこれらのテータ因子を除いた空間のオイラー数に等しい. この種の研究結果は,従来射影空間内の超平面配置の場合で得られているものがほとんどであって,この場合に属さないアーベル曲面の場合の過去の研究は調べた限り全く見かけない.非特異臨界点は,モース理論によれば,ツイストサイクルを構成する際の「タネ」を与えている.他方,拙著の結果(2016)より,上述のオイラー数は2次元ツイストホモロジー群の次元である.したがって,上の定理は本研究課題の主な研究テーマのひとつである2次元ツイストホモロジー群の構造を明らかにするための基礎的な知見を与えている.研究の手法は,Orlik-Terao(1995)の考え方を応用するものであるが,アーベル曲面では可換環論の使用に制約が付くため,本研究では層論の使用を徹底することで定理の証明が可能となった.また,研究テーマが幾何学的であるにもかかわらず,研究手法が非常に代数的かつ層論的であることから,現在研究中のKummer曲面のツイスト(コ)ホモロジーの研究に応用が利くのではないかと思われる.得られた結果については現在論文を作成中. 感染症の流行により,当初計画していた研究旅行は一切中止している.このため,例えば防衛大学校に所蔵しない研究用図書について,従来は購入または他大学に出張して閲覧のみ(購入せず)としていたところ,今年度はすべて購入で対応したため,図書購入費が434千円余と他の年度と比較してやや多めの支出となった. 令和元年度の水谷との共同研究論文については,防衛大学校理工学研究報告に令和2年9月掲載となった.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
4: 遅れている
理由
令和2年1月以降,感染症の流行により研究旅行を一切中止した.このため,新たに得た研究結果について,論文の執筆に先立ち研究結果を速報し研究過程の詳細について意見を求めることのできる第三者の研究者との研究打ち合わせの実施が極めて困難な状況である.これは高度かつ非常に微妙なコミュニケーションを含むことから,メール等の通信装置の使用だけではできないやりとりもあり,実際に本人に会ってコミュニケーションする必要があるからである.この結果,旅費の支出が大幅に滞っていることから研究費全体の支出にも大幅な遅れが生じている.また令和元年度に共同研究を行ない,令和2年9月に共著論文を出版した水谷康宏氏は令和2年4月に数学研究以外の分野に転出し現在多忙で数学研究ができないため,上述の共著論文の続きの研究が現在止まっている.具体的には,一般ジーゲルモジュラー変換の問題,および種数2の超幾何型積分のみたす微分方程式の研究である.これについては水谷氏の了解を得てこの研究に関する共同研究体制について見直しを行なう必要があるか検討する.令和元年度に遅れが出ていたKummer曲面のコホモロジーの研究および2次元ツイストホモロジーの研究について,「研究実績の概要」で述べた研究結果がこれらの研究の準備または基礎的知見の提供に相当することから,この件については遅れは幾分解消したと思われる.ただ,全体を見た場合,研究費全体の支出の大幅な遅れが大きな要因であるため,判定は「(4)遅れている」となる.
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今後の研究の推進方策 |
やむを得ず研究期間を1年延長する.令和3年度が最終年度となるように努力したい.本研究課題の研究目的のうち過去5年間でおおむね達成されたのは次の3つである.(1) アーベル曲面から複数のテータ因子を除いた空間の基本群の基本関係式の導出,(2) 種数2のリーマン面上6点のWeierstrass点で無限分岐する乗法的函数に付随する積分の接続公式の導出,(3) アーベル曲面上正規交叉テータ因子に沿って無限分岐する乗法的函数の非特異臨界点の個数とオイラー数との関係.(1)と(2)は日本語の論説が出版され,(3)は2020年度末に得られた結果で論文執筆中である.よって,研究目的のうち現在でも未だ達成されていないもののうち最大のものは,Kummer曲面において16個のテータ因子に由来する因子を除いた空間の局所系係数の(コ)ホモロジーの研究である.これは,アーベル曲面上16個のテータ函数の複素冪積で定義される局所定数層を,Kummer曲面の構成に倣い,16点でblow-upすることで持ち上げ,その状態におけるツイストコホモロジーを考察するというものである.blow-upにより16個のテータ因子は正規交叉因子に持ち上がるので,2016年実施の研究において鍵であったDeligneの定理の使用が可能となる.令和3年度はこの課題に取り組むか,または上記(3)のアーベル曲面の場合の研究をKummer曲面の場合で行うオイラー数と非特異臨界点の個数の関係を調べる研究を行なう.ただし,今後予期せぬ困難や長期間の準備作業が必要となり年度内にこれらの研究が到底終わらない場合は,代替の研究として,(2)に現れる積分が,16個のテータ因子と深い関係にあるため,種数2のリーマン面上の積分の解析の研究を行ないつつ,Kummer曲面との関係について何らかの知見が得られないかどうかの検討を行なう.
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次年度使用額が生じた理由 |
令和2年2020年1月から新型コロナの影響で研究旅行ができなくなり,平成31年度末(令和元年度末)に予定していた旅行をキャンセルしたため,388708円が令和2年度に繰り越しとなった.よって令和2年度の使用可能額は1088708円となった.例年の物品費(図書費)等は通常は年間20~30万円程度の支出であるが,令和2年度はいつもであれば他大学の図書館での閲覧で済ませていたような研究用図書も,図書閲覧のための研究旅行が全くできないため,参照すべき研究用図書はすべて購入することにしたので,令和2年度の物品費(図書費)等は437934円の支出となった.ところが依然として研究旅行や研究者招聘等が一切できない状況のため,図書購入以外の支出がほぼ全くできず,令和2年度は1088708-437934=650774円残額が発生し,やむを得ず令和3年度への次年度使用額ということになった.令和3年度は,研究用図書の購入に30万程度をあて,令和2年度1月からできていない研究打ち合わせなどの旅行に35万程度をあてる.コロナが長引き旅費の支出が不可能な場合は,研究用図書購入に充て極力残額が発生しないよう努力するが,それでもかなわない場合は,可能であれば再度次年度に研究期間を延長するか,あるいはそれが不可能ならば,残額は返還して本研究課題を終了するしかないと思われる.
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備考 |
防衛大学校内のみから閲覧できるサイト
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