研究課題/領域番号 |
16K05167
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研究機関 | 宇都宮大学 |
研究代表者 |
酒井 一博 宇都宮大学, 教育学部, 教授 (30205702)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 力学系理論 / 拡大性 / 確率測度 / 測度拡大性 / 双曲性 |
研究実績の概要 |
本研究では,測度拡大的の概念を滑らかな閉多様体上の微分可能写像(同相写像とは限らない)の空間に導入し,拡大性を満たす微分可能写像を測度論的視点から考察するとともに,微分幾何学的力学系理論の立場から特徴付ける。同相写像ではない微分可能写像には,一般に特異点が存在し,微分可能写像の研究推進においては,その存在がしばしば深刻な問題となる。本研究は,特異点の存在を勘案しつつ,測度論との融合という新たな視点から微分可能力学系における Axiom A系の特徴付けを行う。 M上の微可能写像の全体にC~1-位相を導入した空間をC~1(M)で表し,拡大的な微分可能写像全体をEで表す。M上の確率測度全体をM(M),f-不変確率測度の全体をM_f(M)⊂M(M)(f in C~1(M))で表す。本研究では,PE={f in C~1(M):μ-拡大的(∀μin M(M))},IE={f in C~1(M):μ-拡大的(∀μin M_f(M))}を考察対象とする(定義よりE⊂PE⊂IE)。 拡大的微分同相写像のC~1-位相に関する内点は,双曲性+擬横断性条件を満たす力学系として特徴付けされている。正則写像(特異点を持たない微分可能写像)の全体をR(M)で表す。集合E∩R(M)のC~1-位相に関する内点は,研究代表者自身によりAxiom A+擬横断性条件を満たす力学系として特徴付けされている。平成28年度の研究では,R(M)の範躊において測度拡大性を特徴付けに取り組み,微分同相写像の場合の研究手法を見直すことで,測度拡大性を満たす微分可能写像に対しても同様な結果が得られることを確認した。また,測度「正」拡大性を満たす微分可能写像の特徴付けについても検討し,非遊走集合が,無限個の拡大的周期点と有限個の吸引的周期点から成る力学系は測度正拡大性を満たす微分可能写像の内点に含まれることを確認した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究計画調書:平成28年度計画(Step 1:R(M)の範躊での測度拡大性を特徴付け)は予定通りおおむね完了し,成果を研究論文として取りまとめている。ただし,微分同相写像の場合とほぼ同様な手法により結果が得られることから,本成果のみで発表することについては考慮中である。
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今後の研究の推進方策 |
特異点の存在を踏まえたAxiom Aの概念は既に取り扱われているが,平成29年度以降の研究では,より弱い概念の創出も視野に入れつつ分類・特徴付けに向け,以下のサブステップを踏む。 2.1:吸引的周期点の全体P_dimM(f)は有限集合であること,反発的周期点全体P_0(f)の閉包は双曲的であることを証明。2.2:特異点の存在を踏まえた形でintPE=intE,intIE={Axiom A+no-cycles}を証明。2.3:P_0(f),P_dimM(f)以外の周期点全体の閉包の双曲性を証明,である。 写像f in intIEに対し,反発的周期点の全体P_0(f)の閉包をΛ_0(f)とすると,f-不変集合となる。2.1では,まずΛ_0(f)の近傍には特異点が存在しないことを証明する。証明の方針は,定数λ>1が存在しm(D_pf~{π(p)})>=λ~{π(p)}(∀p in P_0(f))が成り立つことを示す(π(p)はpの最小周期,m(L)は線形写像Lの最小ノルム)。これによりΛ_0(f)の双曲性も証明することが可能と考えられる。P_dimM(f)についても,fの逆極限 \tilde{f}を考えることにより,同様にしてその有限性を示すことが可能と考えられる。 研究推進における中心的課題は,双曲的周期点の集合の閉包の双曲性の証明である。条件f in intIEの下では,絶対値が1より小である固有値全体が成す固有空間の次元が一致するような周期点全体の個数は一定であることが分かる。この事実を用いることで特異点の振る舞いを解析(ある種の局所的な構造安定性を証明)し,Aoki-Moriyasu-Sumiによる論文の成果及び,Przytyckiにの論文で開発された研究手法を詳細に検討・改良することにより,双曲的周期点の集合の閉包の双曲性を示す計画である。
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次年度使用額が生じた理由 |
平成28年度は,エルゴード論的力学系理論の専門家である鷲見氏(熊本大学)を訪問する予定であったが,地震の影響で10月以前の訪問を取り止めた。平成28年11月以降は,宇都宮大学における教員評価関連のWG委員会(報告者が座長)等のスケジュールや鷲見氏自身の出張スケジュール等の関係で熊本大学出張の調整が困難となったため。
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次年度使用額の使用計画 |
平成29年度は6月(又は7月)及び9月に熊本大学(鷲見氏)を訪問し,平成28年度の本研究の成果を発表し研究討論を実施するとともに,測度拡大性及び測度「正」拡大性の特徴付けついて研究セミナーを実施し,エルゴード論的力学系理論の視点から支援を頂き本研究のより一層の推進に向け活性化を図る。
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