研究実績の概要 |
量子スピン系上の, 並進対称性を持った局所的な相互作用によるハミルトニアンは, 古くから研究されている数理物理学の基本的な対象である. このうち基底状態でスペクトルギャップを持つものは, 物理的には正常相と見ることができる. この正常相全体が, どの様に繋がっている, あるいは繋がっていないのかが, 本研究のテーマである. すなわち, 基底状態でスペクトルギャップを持つハミルトニアンの集合上,「二つのハミルトニアンは, それらが, スペクトルギャップのあるハミルトニアンの連続な路によりつなぐことができれば, 同じクラスに入る」という同値関係によりこの集合を分類したい.これまでに,バルクでの基底状態が一意で, 有限鎖で考えたとき,基底状態の縮退度が鎖の長さによらず上に有界, かつ,フラストレーションフリーと呼ばれる条件を満たすものの分類を行った.この解析のカギとなる点は,このようなハミルトニアンが,MPSハミルトニアンと呼ばれるハミルトニアンと同値であることである.すなわち,上記の性質を満たすハミルトニアンについて,それと同値であるようなMPSハミルトニアンでしかもギャップをもつものを作ることが出来る.これにより,考えるべき分類問題が,スペクトルギャップを持つMPSハミルトニアンの分類問題に帰着する.MPSハミルトニアンは,いくつかの行列の組をもとにしてつくられるハミルトニアンであるが,常にギャップを持つわけではない.これまでに,ギャップを持つような新しいクラスを導入し,それを用いて上記相互作用のクラスの分類を行った.この新しいクラスは,5つの定性的な条件で特徴づけられるある意味自然なクラスとなっている.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
次なるステップは,相互作用についての条件を緩めたクラスの分類を行うことである.はじめにはずしたい条件として基底状態の縮重度が一様に有界であるという条件がある.実際、たとえば(適切な境界条件を定めた)XXZモデルといった量子スピン系のモデルにおいては、基底状態の縮重度は鎖の長さに比例して増大する.このような状況を一般的な枠組みで理解するために,XXZモデルの基底状態の,無限次元ヒルベルト空間上の有界線型作用素の組による表現を得た。これはMPSハミルトニアンのもととなる行列の,無限次元版に対応する.
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今後の研究の推進方策 |
引き続き基底状態の縮重度が増大するような,スペクトルギャップのあるハミルトニアンの例を検証していきたい.特に量子群の対称性をもつものについて,XXZと同様の,ヒルベルト空間上の有界線型作用素の組による表現を考えることにより, スペクトル解析を行いたい.そして,その一般化を考えていきたい. 次に,フラストレーションフリーという条件を除く.このためには,並進不変で,MPSでないような純粋状態についての知見を深める必要がある.これまでにいくつかの候補があげられているので,それらを精査していく.
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