可積分ハミルトン系の特異点近傍においてバーコフ標準形を用いて「解ける座標」を導入する問題を研究期間を通じて研究した。そのために,共鳴不動点の近傍で一般に複数のパラメータに依存するシンプレクティック写像族の標準化問題を追求した。本年度は,写像族が複素解析的な場合に,不動点の共鳴度をより自然な形で定義し直すことを行い,可積分系のもつ剛性をより明快に述べることができたとともに,解析的力学系を扱う際の複素領域における問題と実領域での問題の相違について再認識することになった。さらに,シンプレクティック写像がパラメータに依存することから生じるさまざまな問題について研究を行なった。とくに可換な写像族の線形部分が同時対角化できるかどうかについて引き続き研究を行なったが,期待された剛性を示すような結果を得るには至らず,固有値にある種の単純性を課すことによって結果を得るにとどまった。しかしながら,シンプレクティック写像族が自由度より共鳴度の個数だけ過剰な個数の関数的に独立な第一積分をもつならば,バーコフ座標が「解ける座標」を与えることを明快な形で示し,それを応用して実解析的な超可積分系の特異点集合の近傍で解ける座標を導入できることを示すことはできた。その際の仮定となる条件が完全に力学系的観点で表現されることと証明方法が解析的であることが本研究の特徴である。なお,このとき系のハミルトニアンは自由度の個数よりも少ない個数の変数の関数になるが,それらの変数の内在的意味について明らかにすることができず,これは今後の課題となった。 また、ねじれ条件を満たさない解析的な可積分系の摂動問題について、ある特別な自由度2の可積分ハミルトン系を摂動して得られる系のポアンカレ写像を調べることを継続し,さらにバーコフ標準形に対する複素不変トーラスの存在についてさまざまな角度から考察を行なった。
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