研究課題/領域番号 |
16K05174
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研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
伊師 英之 名古屋大学, 多元数理科学研究科, 准教授 (00326068)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | グラフィカルモデル / 対称錐 / 正定値対称行列 / コレスキ分解 / 自己平行部分多様体 / フロベニウス・リー代数 / 余随伴軌道 |
研究実績の概要 |
色付きグラフィカルモデルのうち,完全グラフを頂点の置換による対称性で色付けしたものについて,対称錐とジョルダン代数の理論を援用して行列式のべき乗のラプラス変換を計算し,規格化定数を明示的に求積する公式を得た.なお,モデルに付随するジョルダン代数を決定する際に,有限群の表現論が大変重要な役割を果たす.これらの結果をもとに,与えられたデータに最も当てはまるモデルを探索する「モデル選択問題」に取り組んだ.以上は Piotr Graczyk 教授,Helene Massma 教授,Bartosz Kolodziejek 博士との共同研究である.
上記の色付きグラフィカルモデルにも現れるが,実対称行列からなるジョルダン代数の部分代数は,正定値実対称行列からなる対称錐の二重自己平行部分多様体と適当な同値関係をのぞいて一対一に対応する.この二重自己平行部分多様体は,半正定値計画法においては計算コストが極小となる問題に対応し,統計学の文脈では inversely linear なモデルに対応する.対称錐についての議論と類似した方法により,確率的単体の二重自己平行部分多様体も決定することが出来た.以上は小原敦美教授との共同研究である.
余随伴作用に関する開軌道をもつ実リー代数を実フロベニウス・リー代数と呼ぶ.等質ジーゲル領域に付随する正規 j 代数や,有限次元実ベクトル空間上のアファイン変換全体からなるリー代数は,その例である.実フロベニウス・リー代数の余随伴開軌道に対応するユニタリ表現は二乗可積分既約表現であるという予想と,その微分表現は展開環の忠実な表現を与えるという予想をいくつかの部分的な場合について証明した.これは Ali Baklouti 教授と Edi Kurniadi 博士との共同研究である.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
性質の良いコレスキ分解を特徴づける代数構造(以後コレスキ構造とよぶ)は,等質錐に付随する左対称代数と類似の内部構造を持っていることが判ってきた.等質錐の場合と同様に,コレスキ分解を正定値実対称行列の座標として用いることにより,様々な形の実対称行列からなる凸錐上で美しい解析的公式(行列式のべき乗のラプラス変換や乗法的ルジャンドル変換の明示公式など)が得られるが,これらの公式は数理統計や情報幾何にも応用できる.
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今後の研究の推進方策 |
コレスキ構造を中心に据えて凸錐上の幾何と解析を展開する一方,それらの数理統計や情報幾何への具体的な応用を探る.たとえば,研究実績の概要で述べた色付きグラフィカルモデルや二重自己平行部分多様体の問題を,対称錐の枠組みを超えてコレスキ構造をもつ凸錐上で考えることは理論的にも応用的にも意義深い課題である.
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次年度使用額が生じた理由 |
今年度に出席を想定していた海外の研究集会の参加をとりやめたため.次年度使用額は,情報幾何についての最新の文献収集のために使用する.
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