研究課題/領域番号 |
16K05181
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研究機関 | 前橋工科大学 |
研究代表者 |
伊藤 公智 前橋工科大学, 工学部, 准教授 (00510702)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 作用素不等式 / 作用素平均 / 作用素単調関数 / 作用素エントロピー |
研究実績の概要 |
本研究では,ヒルベルト空間上の有界線形作用素を扱う.その中でも,特にフルタ不等式をはじめとする作用素平均と関連した作用素不等式の研究と作用素エントロピーの性質についての研究を行っている.そして,それらの意味を精査し,量子情報理論の作用素論的基礎付けを図ることを試みている.作用素平均については,1980年に発表された久保-安藤による一般的な理論が知られている.その中で,作用素平均と作用素単調関数の対応関係が示されている.近年は,この視点からの作用素平均の研究が盛んである.平成28年度に実施した本研究の成果として,以下の2つの新たな結果を得ることができた. 1. 2つの実数の平均として知られる power difference mean と Heron mean の間の関係として,power difference mean を Heron mean で評価する不等式を得た.また,久保-安藤の理論を適用することにより,作用素平均に関する同様の結果も得ることができた.この結果は,従来の結果と異なる手法により従来の結果を拡張したものとなっており,論文雑誌に掲載予定となっている. 2. 作用素エントロピーは,重み付き相乗平均の重みをパラメータとする path 上の点における velocity とみなすことができる.この視点から,本研究では velocity としての作用素エントロピーと対応する量として acceleration を導入し,acceleration が velocity と対応した性質をもつことを示した.2の研究は,伊藤(研究代表者)と連携研究者の渡邉雅之氏,遠山宏明氏,伊佐浩史氏,研究協力者の亀井栄三郎氏との共同研究により行われ,この結果をまとめた論文は論文雑誌に掲載予定となっている. これらの研究成果について,国内での学会,研究集会において計7件の口頭発表を行った.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究では,具体的な研究項目として次の3点を掲げている.1. 作用素平均と関連した新たな作用素不等式の開発,2. 作用素エントロピーの性質についての研究,3. 量子情報理論の作用素論的基礎付け. 平成28年度に得られた「power difference mean を Heron mean で評価する不等式」は主に1に関する成果であり,「作用素のaccelerationの性質」は主に2,3に関する成果である.よって,平成28年度は3点の研究項目全てに関する成果が得られており,その意味で,本研究はおおむね順調に進展していると考えられる.
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今後の研究の推進方策 |
今後は,前年度に引き続き,異なる作用素平均の間の関係を調べること,作用素エントロピー,作用素ダイバージェンスやそれらと関連する量について調べることに取り組む.本研究で得られた結果については,論文雑誌に投稿する.また,日本数学会年会・秋季総合分科会や京都大学数理解析研究所で行われる研究集会等で発表を行う.また,およそ2年に1回行われるILAS(Conference of the International Linear Algebra Society)や,その他の国際学会においても発表を行う予定である. これらの研究活動の遂行のため,書籍の購入,論文掲載料,旅費等の経費を使用する.
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次年度使用額が生じた理由 |
平成28年度の所要額はおおむね使用しているが,平成28年度には参加しなかった国際学会への参加等,次年度以降の使用額増加を考慮し,残額を次年度に使用することとした.
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次年度使用額の使用計画 |
平成29年7月にアメリカで行われる国際学会(ILAS)に参加する等,学会や研究集会参加のための旅費として使用する.また,書籍や文具等の購入のため,物品費として使用する.
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