本研究では,可積分系の研究において導入された「タウ関数」という視点を広げるとともに,その概念と諸分野との関連を考察することで,可積分系の世界をさらに広げていくことを目標としている。2022年度は,空間2次元の流体に対して,長波と短波の相互作用を記述する方程式を扱い,その「タウ関数」に関する研究を行った。ソリトン理論の原点に立ち返って流体の基礎方程式から出発したため,現れる方程式は一般には可積分系ではないと思われるが,その場合も含め,いわゆる「広田の方法」を適用して,どのような場合に厳密解を構成できるかを調べた(丸野健一氏 (早稲田大学),沢田陽宏氏 (立教大学大学院生) との共同研究)。結果として得られた方程式は,及川・岡村・船越によって以前に得られたものと同じであったが,その方程式が表面張力重力波という異なる物理系からも導出できることを示したことになる。 また,短波成分が複数ある場合についても考察し,連立型の方程式も導出した。こちらについても,方程式自体は以前から提案されていたものと同じであるが,物理系と対応づけられたことに意義があると考えられる。方程式のソリトン解については,1ソリトン解は一般のパラメータの場合に構成することができており,現在は多ソリトン解について研究中である。 これまでに得られた結果については,久留米工業大学での研究集会,及び応用数理学会研究部会連合発表会 (岡山理科大学) において研究発表を行った (発表者は沢田氏)。
|