リーマン球面上の有理関数を反復合成して得られる力学系をここでは複素力学系とよぶ.複素力学系の安定性は複素構造の変形可能性として定式化でき,とくにその退化や分岐について研究した.以下に具体的な研究内容を述べる. ・放物的周期点をもつ有理関数の「条件付き安定性」に関するGoldberg-Milnor予想へのアプローチとして,μ-等角写像に収束すると期待される擬等角写像の列に対する考察をおこなった.特に,幾何学的有限と呼ばれるクラスに属する有理関数に関しては一定の成果が得られた.その他のクラスについてもいくつか技術的な課題は残っているが解の存在を示唆する結果が得られた. ・Zalcmanの補題を複素力学系に適用して得られる有理型関数の族(Zalcman関数族)とその応用について研究した.とくに,反正則写像に対しても同様の結果が適用でき,マンデルブロー集合とジュリア集合の局所類似性(Tanの定理)の反正則版として,トライコーンとジュリア集合の局所類似性に関する論文を執筆した. ・Yi-Chiuan Chen氏との以前の共同研究でCantor型の2次多項式力学系が退化して半双曲的とよばれるクラスの2次多項式力学系が生成される現象について,正則運動の退化という形で定式化し,その速度評価を与えたが,その放物的2次多項式版を証明した.現在,論文の執筆を進めている. ・以上の結果について,3件の国内セミナー発表および3件の国際研究集会発表を行った.とくに2019年12月には台中で行われた台湾数学会年会において招待講演を行った.
|