研究課題/領域番号 |
16K05202
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
宮地 秀樹 大阪大学, 理学研究科, 准教授 (40385480)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | タイヒミュラー空間 / レビ形式 / 多重グリーン関数 / 多重劣調和函数 / ベアス埋め込み |
研究実績の概要 |
本年度は,タイヒミュラー空間の複素解析的構造の解明のために,極値的長さ及びタイヒミュラー距離の複素解析的性質を研究した. 測度付き葉層構造の極値的長さはHubbardとMasurの定理により対応する正則2次微分のノルムである.そして,正則2次微分が一般的(generic)の場合,Masur, Smillie, Veechの正則2次微分の空間の局所座標を応用することにより,タイヒミュラー空間の実解析的な局所座標を構成する事ができる.この座標では,リーマンの双線形関係式により,極値的長さの関数は線形関数である.本年度はこの座標に関してタイヒミュラー空間の複素構造を具体的に記述した.そして,この座標に関して,極値的長さのレビ形式を具体的に計算した.その結果,この座標におけるレビ形式は,対応する正則2次微分の平方根により定義されるリーマン面の周期行列の虚部により定義される2次形式と一致する事を示した.さらにこの座標を用いて,極値的長さの関数の微分公式(Gardinerの公式)の別証明を与えた. 昨年度のタイヒミュラー距離関数のレビ形式に関する結果を応用することにより,タイヒミュラー空間上の多重グリーン関数とタイヒミュラー距離関数の関係を与えるKrushkalの公式の別証明を与えることに成功した.この証明において,昨年度研究したMasur, Smillie, Veechの正則2次微分の空間の局所座標を用いた接空間の分解定理を,特異点の構造が固定されている正則2次微分の空間(正則2次微分の空間の階層構造の層)の場合に拡張した.そして,タイヒミュラー空間上の実解析的な階層構造を得た. これらの結果とこれまでに研究してきた極値的長さの幾何学を用いて,ベアス埋め込みに多いて多重ポテンシャル論を展開した.特に,一意的エルゴード的な点におけるDemailyの多重調和測度及びポアソン核を計算した.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
Masur, Smillie, Veechの正則2次微分の空間の局所座標を用いた接空間の分解定理を一般の場合に拡張したため.そして分解定理と昨年度に得られたタイヒミュラー距離関数のレビ形式の計算を応用して,Krushkalの公式の別証明が得られたため.さらに,それによりタイヒミュラー空間上の多重ポテンシャル理論(複素解析的構造の研究の一部)の展開及びベアス境界の構造の研究をする足がかりを得られたため.
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今後の研究の推進方策 |
タイヒミュラー空間のベアス埋め込みの像を用いて,タイヒミュラー空間上の多重ポテンシャル理論の基礎付けを目指す.具体的には,すでに得られている場合を一般化する方向で,Demaillyによる多重調和測度,特にポアソン核と極値的長さの幾何学との関係を明らかにしたい.解明された後,タイヒミュラー空間上の有界正則関数のベアス境界における振る舞いの研究に着手する.特に境界値の存在および性質の研究に着手する.その境界値は,ベアス境界におけるある種のCR関数と考えることができる.既存の理論と比較しながら,そのある種のCR関数の定義や理論の基礎付けについて研究に着手する.
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次年度使用額が生じた理由 |
複数の海外出張と海外の研究集会の出席および講演が既に決まっていたため.
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