研究課題/領域番号 |
16K05205
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研究機関 | 奈良女子大学 |
研究代表者 |
富崎 松代 奈良女子大学, 名誉教授 (50093977)
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研究分担者 |
飯塚 勝 福岡女子大学, 国際文理学部, 学術研究員 (20202830)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 広義拡散過程 / モランモデル / 極限過程 |
研究実績の概要 |
集団遺伝学における課題(ランダムな環境変動を伴う確率モデルの定式化とその性質の解明)において、Brox(1986)による極限過程を双一般化拡散過程として捉えたOgura(1989)の手法の適用を試みた。一方で、該当する確率モデルについて、別の視点からの考察を推進した。即ち、昨年度はランダムな環境を2値マルコフ連鎖で記述することにより、モランモデルとライト・フィッシャーモデルの2つのモデルの2次モーメント(分散)の極限が異なることを明らかにしたが、今年度は、遺伝子頻度の単位時間当りの増分のモーメントの収束を評価することにより、極限過程を同定する手法を用いた解析を行った。問題を簡素化するために、ランダムな環境変動が時間的に独立である場合を考察した。また、研究協力者の楠見淳子九州大学比較社会文化研究院准教授と討論を行い、結果の生物学的解釈に関する知見を得た。 固定された環境の下での広義拡散過程列の極限過程の導出において、尺度関数列・速度測度関数列の極限の考察だけでは極限過程の決定に至らない例について、分布のラプラス変換を考察することにより、極限過程を決定した。また、固定された環境の下で、有限区間上の広義拡散過程に対応するディリクレ形式を考察し、区間の端点での境界条件や区間内部での速度測度の退化の様相がディリクレ形式に反映される状況を明らかにした。更に有限区間上の広義拡散過程と球面ブラウン運動との斜積を考察し、その標本路の挙動を確率過程のFelle性と関連付けて解明し、またディリクレ形式も決定した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究実績の概要は、平成29年度の研究計画として記載した内容がおおむね順調に進展していることを示している。 昨年度は、ランダムな環境におけるモランモデルとライト・フィッシャーモデルの2次モーメントの極限が同一とは限らないことを、ランダムな環境を2値マルコフ連鎖として定式化した場合に示すことができたが、本年度は、ランダムな環境が時点ごとに独立な場合に、高次モーメントを考察することにより世代間の遺伝子頻度の差の収束について様々な結果を得ることができた。 固定された環境の下で、広義拡散過程列の極限過程が尺度関数列の極限と速度測度関数列の極限では決定できない例について、ラプラス変換の意味で、極限過程を決定することができた。
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今後の研究の推進方策 |
平成28年度~29年度に得られた結果を用いて、研究代表者、研究分担者、研究協力者は、討論を行いながら、以下の研究を推進し、学術論文を作成する。なお、本研究課題では広義拡散過程の収束問題が大きく関わっていることから、最終年度の研究を加速させるために、この分野の研究を行っている嶽村智子氏(奈良女子大学研究院自然科学系助教)が平成30年度から研究協力者として参加する。 ① 時点ごとに独立であるランダムな環境におけるモランモデルとライト・フィッシャーモデルの遺伝子頻度の増分のモーメントの極限に関する結果を用いて、これらのモデルの有限次元分布の意味での拡散過程への収束を考察する。さらに、独立でないランダム環境の場合への拡張の可能性を考察する。 ② 固定された環境の下で、広義拡散過程列の極限過程の導出において、尺度関数列・速度測度関数列の極限の考察だけでは極限過程の決定に至らない例について、有限次元分布の意味での収束について考察する。平成29年度は分布のラプラス変換の意味での収束を考察して極限過程の決定を行ったが、その結果は、必ずしも有限次元分布の収束を意味しない。そこで、有限次元分布を定める確率密度の構成に立ち戻り、その収束について考察する。更に、有限区間上の広義拡散過程に対応するディリクレ形式の考察において、区間の端点での境界条件として吸収壁、反射壁に加えて弾性壁についても考察し、境界条件がディリクレ形式に反映される状況を明らかにする。
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次年度使用額が生じた理由 |
(理由)平成29年9月11日~14日に山形大学で、平成30年3月18日~21日に東京大学で開催された日本数学会に出席を予定していたが、腰痛の悪化により移動することが困難となったために、出席を取りやめた。 (使用計画)平成30年度は最終年度であることから、研究成果のとりまとめに向けて、研究分担者、研究協力者と頻繁に研究討論を行う必要がある。このために、研究打合せ旅費として使用する。
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