ランダムな環境変動下での集団遺伝学の確率モデルに関して、確率的自然淘汰を伴う離散時間モランモデルとライト・フィッシャーモデルをランダム媒体中の離散時間マルコフ過程として定式化した。確率的自然淘汰を2値マルコフ過程で与えた場合に、これらの確率過程のn時間ステップの増分の1次と2次のモーメントの漸近挙動を解析した。確率的自然淘汰が各時点で独立でない場合、特に、環境変動の持続確率が1/2より大きい定数の場合の解析を行った(持続型環境変動)。ライト・フィッシャーモデルの1次と2次のモーメントの極限は、次世代を構成するときの無作為抽出の効果(サイズ効果)と確率的自然淘汰の両者を含むことが分かった。ここで、確率的自然淘汰は理論集団遺伝学者ガレスピーの分類によるmoderate autocorrelationに対応している。一方、モランモデルではサイズ効果のみを含むことが判明した。すなわち、これまでに考察した独立な確率的自然淘汰の場合と同様に2つのモデルの漸近挙動が異なることが明らかになった。さらに、自然淘汰の相互作用を伴う多次元確率モデルに関する研究を行った。miRNAとターゲット遺伝子の共進化の確率モデルを離散時間7次元マルコフ過程として定式化した。次いで、見本路や平常状態の性質を解析した。 また、ランダム媒質における有限区間上の広義拡散過程を、ディリクレ形式を用いた解析的な手法でとらえるために、まず固定された環境の下で広義拡散過程に対応するディリクレ形式を考察した。区間の端点での境界条件や区間内部での速度測度の退化の様相がディリクレ形式に反映される状況を明らかにした。しかし、広義拡散過程列の収束の状況をとらえるためには、区間端点での境界条件を広義拡散過程列とともに変化させて考察する必要があり、このような状況を反映させた新しいディリクレ形式の表現を得ることができた。
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