まず、項目7に載せた論文の概要を述べたい。 1つ目の論文:研究代表者は2001年の論文で τ-distance という距離関数を拡張した概念を導入し、さらにこの概念を用いることで完備距離空間におけるいくつかの不動点定理を拡張した。τ-distance になっている多くの例を挙げることで、単に定理を拡張するだけでなく、τ-distance という概念を通すことで、従来の不動点定理に新しい見方を与えた。後に τ-distance の定義に改良の余地があることが分かり、2017年に研究代表者は τ-distance をわずかに弱くした概念 τ'-distance を導入した。この概念の定義は3つの条件からなる。本論文では、その後続研究であり、3種類のタイプの不動点定理を証明している。τ'-distance の3条件の内、何を仮定すれば定理が成立するのかといった細かい定理の設定も行っている。得られた結果は、Nadler 型の不動点定理は1番目と2番目の条件を、Kannan 型の不動点定理は2番目の条件を、Ekeland の変分原理に関しては、3つの条件すべてを仮定すれば定理の証明ができる、というものである。さらに、上記の条件が best possible、すなわち仮定を1つ少なくすると反例ができることも示した。そして最後に τ'-distance であるが τ-distance でない例をあげ、τ'-distance が τ-distance より真に弱い概念であることを示した。 2つ目の論文:τ-distance と τ'-distance を導入した歴史的な経緯と得られた定理について、まとめた論文である。 本研究期間で32編の論文を発表した。完備距離空間における不動点定理だけではなく、距離空間を仮定しない空間における不動点定理の研究を行った。また、空間の構造に関する研究も行った。
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