研究課題/領域番号 |
16K05210
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研究機関 | 首都大学東京 |
研究代表者 |
服部 久美子 首都大学東京, 理学研究科, 教授 (80231520)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | ループ・イレーズド・ランダム・ウォーク / 自己回避ウォーク / フラクタル / 変位の指数 / 重複対数の法則 |
研究実績の概要 |
フラクタル空間上での非マルコフ過程の研究をおこなっている。 無限に広がるプレ・シェルピンスキー・ガスケットとよばれるグラフ上で、無限の長さのループ・イレーズド・ランダムウォークを構成しその性質を調べた。ループ・イレーズド・ランダムウォークは、単純ランダムウォークから、できた順にループを消して得られるウォークとして定義される。プレ・シェルピンスキー・ガスケット上の単純ランダムウォークは再帰性を持つのでまず有限なガスケット上でループ・イレーズド・ランダム・ウォークを構成し、コルモゴロフの拡張定理を用いてそれを無限に拡張する。このような無限シェルピンスキー・ガスケット上のループ・イレーズド・ランダム・ウォークの構成と、歩数が大きくなる時の漸近的性質,すなわち,出発点とn歩目の位置の間の直線距離の期待値が、歩数nが十分大きいときにnのべきの形の振舞いをみせることと、nの指数(変位の指数)の値、growth exponentとよばれる、ある距離に達するまでにどのくらいの歩数が平均的に必要かを表す指数を求めた。また、平均的な振舞いとは別に、pathごとの振舞いを見るものとして、重複対数の法則を証明した。 これを論文にまとめたものが 2019年にStochastic processes and their applications に掲載された。また、Falconerの『Fractals』の翻訳を岩波書店から出版した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
4: 遅れている
理由
フラクタル空間でのループ・イレーズド・ランダムウォークの研究は、研究代表者が考案したELLF法、すなわち、大きい順からループを消していく方法を用いていた。この方法で構成したループ・イレーズド・ランダムウォークはは普通のシェルピンスキー・ガスケット(2-ガスケット)上では標準的ループ・イレーズド・ランダムウォーク(ループをできた順に消す)と同じものであることを証明した。 無限に広がる3-ガスケット(正三角形を6つの上向きの小さい正三角形で置き換える操作を繰り返して得られる)上では、指導する大学院生が、無限の長さをもつループ・イレーズド・ランダムウォークがELLF法で構成できること、および変位の指数を得た。また、研究代表者が標準的な構成法と一致することを証明した。 これらの証明は実際に両方計算して比較したものだが、一般的に成り立つ仕組みがあると予想している。 平面内の一般のn-ガスケットに対して成り立つと予想して証明しようとしているが、その証明を完成させたい。 昨年度は専攻長であったため、研究の時間が著しく制限されたためほどんど進んでいない。
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今後の研究の推進方策 |
昨年度専攻長の仕事に時間をとられて、研究が進まなかった分を2020年度に取り返したい。 前年度に証明をしたかったELLF法と標準的方法が等価であることにまず取り組みたい。次にフラクタル上の非マルコフ過程で空間にランダムネスを入れたものを扱いたい。このようなモデルはまだ研究されていない。フラクタル構成の時に2-ガスケットと3-ガスケットがランダムに現れるような、ランダム環境内のループイレーズドランダムウォークを構成したい。 プレ・シェルピンスキー・ガスケットは平面内のグラフであるがその3次元版も考えられる。3次元のプレ・シェルピンスキー・ガスケット上のループ・イレーズド・ランダムウォークはこれまで研究されてこなかった。大学院生との共同研究で3次元ガスケット上のループ・イレーズド・ランダムウォークを構成しようと したが、未完成のままである。
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次年度使用額が生じた理由 |
2019年度は専攻長としての仕事に時間をとられ研究時間が十分にとれなかった。 2020年度はその遅れを取り戻したい。2020年度に海外研究集会出席予定で予算を残していたが新型コロナウイルスのため行けなくなったので、代わりに壊れかけているパソコンを買い替えたい。
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