研究課題/領域番号 |
16K05211
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研究機関 | 慶應義塾大学 |
研究代表者 |
河添 健 慶應義塾大学, 総合政策学部(藤沢), 教授 (90152959)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | Kunze-Stein現象 / 半単純リー群 / ヤコビ解析 / アーベル変換 |
研究実績の概要 |
非可換調和解析における特異積分論の構築が主目的である。最も基本的である結合積について改めて詳しく調べることにした。とくに非可換調和解析において特有なKunze-Stein現象について、その端点評価の高ランクへの拡張を試みた。複素単純リー群においては高ランクへの拡張が可能であるが、SU(n,m)などの半単純リー群では拡張が極めて難しいことが判明した。手法としてはAbel変換の逆変換を用いた。この際、リー群上の結合積がAbel変換像のユークリッド空間上の結合積に変換され、Kunza-Stein現象がユークリッド空間の結合積の言葉で表すことができる。このとき、高ランク化への本質が、Abel変換の有界性に強く依存することが判明した。とくにその有界性は球関数の積分表示に現われる核関数の有界性が本質となることが分かった。通常の議論では、高ランクは、ある場合に可能となれば、他の場合にも可能となるが、今回の発見は、球関数の積分核が高ランク化するにつれ、積分の回数が増えるので有界性が悪くなる現象である。このことが複素単純リー群では上手く行くが、一般の半単純リー群では上手く行かないことの理由となる。したがってKunze-Stein現象の端点評価を求めるには、積分の回数を減らすこと、すなわち微分作用素あるいはフーリエ・マルティプライヤーの作用が必要となる。今回、従来型のKunze-Stein現象の端点評価の改良として、フーリエ・マルティプライヤーを作用させた形の端点評価をSU(n,m)の場合に得ることができた。 本研究の目的の1つに,特異積分論の高ランク化を上げているが、最も簡単な結合作用素においてもこのような複雑な背景があることが分かったことは今後の研究に大いに役立つものと思われる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
現在知られているKunze-Stein現象の端点評価は実ランク1に限られており、その高ランク化は興味深い課題であった。今回、その難しさの本質を突き止めることができ、さらにその改良型としての端点評価を高ランクの場合に得られたことは大きな成果である。今後の研究の方向性が見えてきたことになり、その意味でおおむね順調に進展している。
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今後の研究の推進方策 |
今回は結合積を扱い、その本質がAbel変換の有界性おおび球関数の積分核の有界性であることが分かった。今後、特異積分論、たとえばCalderon-Zygmund型の特異積分論を非可換調和解析において確立することを目標とするが、今回の成果はその指針を与えるものである。Abel変換により、議論を非可換調和解析から、通常のユークリッド空間上の調和解析に移行する。その際にAbel変換が有界性やLpノルムをいかに保つか、あるいは変化させるかを詳しく調べる必要がある。複素単純リー群やSU(n,m)の例に見るように、ノルム変化が、球関数の形状、とくに積分核の形状やランクの数にも従属する可能性が分かった。高ランク化を考える指針として、従来の考え方は類型の構築であったが、今回の例から必ずしも類型とは限らず、新たな作用素-微分作用素などを加味した形で類型を作る必要があることが分かった。今回の成果をもとに、Calderon-Zygmund型の特異積分論を展開したい。
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次年度使用額が生じた理由 |
3月のフランス出張に際し、宿泊費の支給を受けたため。
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次年度使用額の使用計画 |
旅費および物品費として使用する。
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