研究実績の概要 |
速い非線形拡散を与える退化移流拡散方程 式の初期値問題について研究を行なった.その特徴は拡散演算子が未知関数(密度関数)のべき乗に作用する偏微分方程式である.その指数aは圧縮性Navier-Stokes-Poisson方程式の特異摂動から与えられる断熱指数に相当し, 通常はaを1以上と仮定する. 他方, porous media 型あるいは p-Laplace型退化放物型方程式の初期値問題では, 密度関数が大きくなれば, 拡散係数が相対的に小さくなるいわゆる高速拡散型の問題となる. この問題に対してSugiyama-Yahagi(2011) による断熱指数が1-2/n <a<1の有限時間爆発解の研究がある.この結果を発展させて,空間次元nが3以上の同初期値問題に対する有限時間爆発解の研究を行なった.この問題は弱解の可解性が知られており,解析をするにあたり重み付きLp空間を導入した.本研究の特徴はこの高速拡散型に情報理論のShannonの不等式を適用した点である.密度関数の2次モーメントの時間発展を示す常微分方程式にShannonの不等式を適用することにより正値保存性との矛盾を導いた.そのShannonの不等式は断熱指数aに依存した式であり,従来の不等式を拡張した形をとる.a=1のとき, entropyはBoltzmann型となるため, Shannonの不等式はentropy 汎函数の負値部分を制御する不等式となる.退化型の場合, entropyが密度のa乗となるため負値部分は存在しないが, a<1の場合, 数学で扱われるentropyそのものが負になるため, 一般化されたShannonの不等式が必要となる.このとき空間次元3以上で断熱指数は n/(n+2) <a<1となり,爆発解の存在するときの断熱指数について新しい結果を得ることができた.
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