研究課題/領域番号 |
16K05227
|
研究機関 | 金沢大学 |
研究代表者 |
小栗栖 修 金沢大学, 数物科学系, 准教授 (80301191)
|
研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2020-03-31
|
キーワード | シュレーディンガー作用素 / スペクトル解析 / 固有値 / 離散グラフ / 量子ウォーク |
研究実績の概要 |
超格子構造とは異種半導体薄膜の積層で製造される人造の構造物で、量子効果を用いた半導体デバイスである。特定のエネルギーを透過または遮断する機能を持つが、透過域には真の透過域と準透過域が生じる難点がある。準透過域の生成の原因は不明で、その制御は難しい問題である。本研究はこの超格子構造を数学的対象ととらえてその特性を数学的に解析することにある。この問題は数学的には一次元のシュレーディンガー方程式の逆散乱問題のひとつであり、近年の代表者と共同研究者による研究から、超格子のスペクトル構造はそれを離散化したグラフ理論的モデルがより解析しやすいモデルになると分っている。 本年度はこのグラフ理論的モデルのスペクトル構造、とくに埋蔵固有値ならびに共鳴順位の構造の解析、量子ウォークへの応用を行なった。まず、このグラフ理論的モデルにおいて埋蔵固有値ならびに共鳴順位が数学的に厳密に計算できることを兵庫県立大学の野村祐司氏、昭和大学の樋口雄介氏との協力の下で「埋蔵固有値のなす安定擬多様体」と呼ぶことのできる構造を発見し、その詳細な性質を調べた。この構造は埋蔵されない固有値にも存在し、また本質的にはグラフ理論モデル固有のものではなく一般的な点相互作用の量子力学モデルでも存在することも確認できた。 また超格子構造の完全透過はもっとも単純なモデルでは一次元トンネル現象に対応し、この散乱現象にもとづく新デバイスとしての量子ウォークの研究に結びつけることが可能で、逆に量子ウォークの研究成果の量子デバイスへ応用もすでに世界的に始まっている。この応用の基盤は1次元の量子系に限定されていたが、東北大学の瀬川悦生氏、九州大学の松江要氏との協働で単体複体上の量子ウォークを構成することで多次元化を実現して、さらにそのスペクトル構造を解析できた。また新しい単体複体上の量子ウォークを構成方法も構築することができた。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究実績の概要に述べた通り、複数の結果を得ており、これらの結果について、研究集会「量子系の数理と物質制御への展開II」(横浜国立大学)などで講演を行い、また平成29年度も関連する話題での講演を依頼されている。 兵庫県立大学の野村祐司氏、昭和大学の樋口雄介氏との研究であるグラフ理論的モデルにおける共鳴順位の研究は、通常はとても解析的に計算できるとは考えられない問題がこのモデルにおいては可能であることを示すことができ、それに付随する擬安定多様体とでも名付けられる構造を詳しく解析できた。 またグラフラプラシアンや隣接行列のスペクトルの各種平均から定まる量を最小化するグラフを最適なグラフと呼ぶが、最適なグラフを具体的に求めることはとても難しい。過年度に、これをある意味で弱めた弱最適の概念を導入し、頂点数が17以下の小さいPaleyグラフが弱最適であることと最適なグラフの次の平均量が小さいグラフG1(複数存在する)はスペクトルが一致するにもかかわらずグラフとして非同型であること研究代表者とその指導学生(修士)とで示していたが、本年度(平成28年度)は隣接行列の場合に任意の頂点数のPaleyグラフのG1について等スペクトルかつ非同型グラフであることを証明できた。 量子ウォークについては、東北大学の瀬川悦生氏、九州大学の松江要氏との協働で以前のもとは異なる(より良い)単体複体上の量子ウォークを構成し、また量子ウォークの固有対の解析を完成できた。さらには量子ウォークにおける完全透過についても、広島大学の松岡雷士氏との共同研究を始めている。これらの研究成果のうち、野村祐司氏、樋口雄介氏との離散グラフにおける固有値をすべて決定する問題、瀬川悦生氏、松江要氏との量子ウォークの固有対の解析については査読付の論文がすでに学術誌に掲載されてる。他の問題についても精力的に論文執筆をすすめているところである。
|
今後の研究の推進方策 |
昨年度の方策を継承し、兵庫県立大学の野村祐司氏、昭和大学の樋口雄介氏との研究である、グラフ理論的モデルにおける共鳴準位ならびに埋蔵固有値の研究を集中的にすすめる。他のモデルでは考えられないほどシンプルに共鳴準位や固有値を決定できる構造があるので、それを活かした計算によってより詳しいスペクトルの構造の決定にとりくんでいく予定である。 また関連した話題として研究代表者が一人でとりくんでいる問題があり、上記のモデルとは異なる形の相互作用であるにもかかわらずスペクトル解析の道具となる構造に高度の類似性を持つモデルを構築できている。この課題についてはまだ対外的に未公表なので、公表できる形にまで研究をおしすすめて、今年度の前半には投稿論文を執筆する予定である。 量子ウォークについては、従来通り、横浜国立大学の今野紀雄氏の助言を得ながら、東北大学の瀬川悦生氏、九州大学の松江要氏とともに高次元量子ウォークの構築とその構造の解析にとりくむ予定である。また広島大学の松岡雷士氏とも協力して、我々の数学的な結果を物理的な実装に落としこむことを進めていく予定である。 いずれの課題もまだ論文執筆が途中のものがあるので、それらを仕上げることも集中して行う。
|
次年度使用額が生じた理由 |
年度末に兵庫県立大学の野村祐司氏、昭和大学の樋口雄介氏を訪問して、研究打合せを行なう予定だったが、双方のスケジュールの都合がつかず訪問を中止したので、その旅費が残額となった。
|
次年度使用額の使用計画 |
本年度5月中に野村祐司氏、樋口雄介氏を訪問し研究打合せを行い、その旅費にあてる予定である。
|