超格子構造とは異種半導体薄膜の積層で製造される人造の構造物で、量子効果を用いた半導体デバイスである。特定のエネルギーを透過または遮断する機能を持つが、透過域には真の透過域と準透過域が生じる難点がある。準透過域の生成の原因は不明で、その制御は難しい問題である。本研究はこの超格子構造を数学的対象ととらえてその特性を数学的に解析することにある。この問題は数学的には一次元のシュレーディンガー方程式の逆散乱問題のひとつであり、近年の代表者と共同研究者による研究から、超格子のスペクトル構造はそれを離散化したグラフ理論的モデルがより解析しやすいモデルになると分っている。 本年度はこのグラフ理論的モデルのスペクトル構造、とくに埋蔵固有値ならびに共鳴順位の構造の解析、量子ウォークへの応用を行なった。まず、このグラフ理論的モデルにおいて埋蔵固有値ならびに共鳴順位が数学的に厳密に計算できることを兵庫県立大学の野村祐司氏、昭和大学の樋口雄介氏との協力の下で「埋蔵固有値のなす安定擬多様体」と呼ぶことのできる構造を発見し、その詳細な性質を調べた。 また超格子構造の完全透過はもっとも単純なモデルでは一次元トンネル現象に対応し、この散乱現象にもとづく新デバイスとしての量子ウォークの研究に結びつけることが可能で、逆に量子ウォークの研究成果の量子デバイスへ応用もすでに世界的に始まっている。東北大学の瀬川悦生氏、九州大学の松江要氏、広島大学の松岡雷士氏との共同研究によりランダムウォークにない量子ウォーク固有の第三の性質を見い出すことができ、投稿論文が受理された。また、物理実験での確認も進んでいるところである。 また瀬川悦生氏、松江要氏との共同研究で、単体複体上の量子ウォークによる量子アルゴリズム(量子探索)の有効性を示し、論文を出版した。
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