研究課題/領域番号 |
16K05230
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研究機関 | 岡山大学 |
研究代表者 |
田村 英男 岡山大学, 自然科学研究科, 特命教授 (30022734)
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研究分担者 |
筧 知之 筑波大学, 数理物質科学研究科, 准教授 (70231248)
岩塚 明 京都工芸繊維大学, 基盤科学系, 教授 (40184890) [辞退]
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | スペクトル理論 / 散乱理論 / シュレディンガー作用素 / レゾナンス / アハラノフ・ボーム効果 / 3体フェルミ粒子系 / エフィモフ効果 |
研究実績の概要 |
量子力学が提供する数学の問題は広く深くそして豊かである。その研究対象であるミクロな物理現象において、古典力学的な直感と相容れない現象がしばしば生じる。このような量子現象は量子効果とよばれ、数学解析の格好の題材を提供している。本年度の研究成果について報告する。 アハラノフ・ボーム効果(AB効果) :3つの直線状に並んだソレドノイド磁場による散乱系に対して、実軸近傍に生成されるレゾナンスがソレノイドの中心間で生じる古典軌道の捕捉現象と AB 効果によっていかに決定されるかを解析した。ソレノイドが直線上に配置されることは、AB 効果が最も強く現れる配置であり、障害物による波動散乱における所謂 Ikawa(井川)条件が壊れるモデルでもある。成果は、国際学術誌に掲載受理され、昨年 Web 上で on line の状況にあったが、オープンアクセスの形で今年公表された。 エフィモフ効果:エフィモフ (Efimov) 効果とは、粗く言えば、3体系において、2体部分系が負の固有値を有しないにもかかわらず、ある条件のもとで、3体系自身は無限個の負の固有値をもつ現象をいう。この現象は、3次元空間においてのみ成立するが、2次元においても、反対称性を有する波動関数に制限すれば、p 波レゾナンスから同じ現象が生じることが物理文献で報じられている。数学的視点からの解析を試み、論文として纏めている段階である。 その他の研究活動:今年は、故加藤敏夫教授の生誕 100 年にあたり、数理解析研究所のプロジェクトとして一連の国際研究集会が開催された。一瀬孝氏(金沢大学・名誉教授)に東京大学で9月に開催された集会への旅費として、また2名の外国人研究者を数理解析研究所での集会の講演者に招聘した。また、研究分担者 岩塚明氏を通して、例年行われている「夏の作用素論シンポジウム」(7月伊勢市)の運営経費の一部を補助した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
初年度(2016年度)に国際学術誌 (Applied Mathematics Research eXpress, Oxford Press) に投稿し、掲載を受理され、Web 上で on line 状況にあっ論文が今年度オープンアクセスとして公開された。それによって、当初の目標のひとつである、3個のソレノイド磁場に対するレゾナンスの分布にみるアハラノフ・ボーム効果の数学解析については一区切りついた。今年度は、次の目標であるエフィモフ効果に軸足を移し、最新の関連する文献の収集とその精査の準備段階はすでに終え、2次元3体フェルミ粒子系のエフィモフ効果の数学的立証について論文を執筆している。研究計画はおおむね順調に進展しているといえる。
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今後の研究の推進方策 |
来年度の研究目標は、低次元空間(1、2次元空間)での4体系、5体系でのエフィモフ効果の立証に焦点を絞る。これは、最近の物理系学術誌で報告されてきた結果であるが、数学的な視点からの解析を初めて試みる。そのための方策はある程度は固まっている。
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次年度使用額が生じた理由 |
(理由)2名の外国人研究者(ナント大学・ツールーズ大学)を 12 月上旬に京都大学数理解析研究所の国際研究集会での講演およびスペクトル理論の研究課題に関する研究交流のために招聘した。その経費が想定した額より下回ったことと、購入を予定したパソコン(約 10 万円)が次年度に繰越したため。
(使用計画)最終年度となる来年度の経費は、約 95 (70 + 25) 万円程度となる。内 10 万円はパソコンの購入費にあてる。繰越金は実質 15 万円程度で、これによって、研究計画が変わることは全くない。
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