研究実績の概要 |
平成28年度は、細胞の極性を生成するメカニズムに関する数理モデルの解析を行った。このモデルは、Mori-Jilkine-Edelshtein-Keshet に依るモデルであり,この分野では評判の良いモデルである。しかしながら,彼らのモデルは、細胞内での反応と拡散をモデル化しており、細胞極性に係わるタンパク質の相互作用の実態を忠実には反映していない。タンパク質間の相互作用は実際は細胞膜で起こっていることが確認されているので、従来のバルク(細胞質内)に於ける反応拡散モデルはそのまま適用できない。そのかわり、彼らの論文では、活性状態のタンパク質の拡散係数を不活性状態の拡散係数より大幅に小さいと仮定した状況で扱っている。活性タンパク質は細胞膜上に主に存在し、不活性状態のタンパク質は細胞質内を拡散している状況を表現している。 一方、平成28年度の本研究は、活性状態不活性状態の両タンパク質は、細胞質内では自由に拡散し、細胞膜上で相互作用しているとするモデルを扱った。すなわち、不活性状態のタンパク質は膜上で活性状態に転換され、それらが、流速によって細胞質内に輸送される状況を記述する数学的モデルを解析した。その結果、両状態のタンパク質の拡散係数が同じ場合でも細胞極性を特徴付ける三つの現象、apmlificaion, robulstness, sensitivity が、我々のモデルでも実現されることを数学的に示した。これらは、定数平衡解、非定数平衡解の存在証明とそれらの平衡解の力学系的な安定性を決定する問題として定式化でき、それらを、数学的に証明することができた。この研究は、細胞極性を記述するより現実的(と思われる)モデルを提示し、それによって提起される新規な数学的問題を詳細に解決し、細胞極性の数理メカニズムに関する洞察を与えると共に、数学的に新規な問題群の指摘にも寄与することができた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
細胞極性の新規な数理モデルとその数学的な解析により、理論・応用の両面で、本研究課題の目的に向かって着実に進捗している。それらは以下のように3回の口頭発表においても証明されている。 1. Kunimochi Sakamoto;An elementary analysis of boundary interactions and bulk diffusion systems, International Conference on Reaction Diffusion Equations and their Applications to the Life, Social and Physical Sciences, 中国人民大学 2016年5月26日 ー 29日 2. Kunimochi Sakamoto; Stability analysis of non-uniform solutions for diffusive systems with nonlinear boundary flux, ミクロな振る舞いと集団的パターン形成に係わる階層的構造の解明(京都大学数理解析研究所), 2016年9月12日- 14日 3. Kunimochi Sakamoto; Bulk Reaction versus Boundary Flux in diffusive systems, 日本数理生物学会(九州大学), 2016年 9月7日 - 9日
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