研究課題/領域番号 |
16K05253
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研究機関 | 大阪教育大学 |
研究代表者 |
瀬尾 祐貴 大阪教育大学, 教育学部, 教授 (90439290)
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研究分担者 |
藤井 淳一 大阪教育大学, 教育学部, 教授 (60135770)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | Operator inequality / Operator entropy / Positive operator / Tsallis entropy / Geometric mean / Karcher mean / Operator power mean |
研究実績の概要 |
本研究は、ヒルベルト空間上の作用素不等式及び行列解析の手法をもとにして、情報幾何学や量子情報理論などの分野のさまざまな幾何学的様相に絡んだ定量的な評価を中心に考察し、作用素論的な枠組みの構築とその幾何学的構造を解明することが主目的である。その目的の達成のために、ヒルベルト空間上の線形作用素や行列の枠組みの中で定式化を試みる。作用素論に基づく情報理論の構築において、藤井・亀井によって、梅垣・中村の相対エントロピーの作用素版として、1989年に相対作用素エントロピーの定式化が行われ、エントロピーとしての様々な性質が考察された。最近では、Petzが、行列や作用素環のより広い枠組みで、Csiszar のf-divergence の量子的一般化として、quasi-entropyの概念を定式化した。さらに、日合‐Petzは、行列論の枠組みで、考察を続け、量子情報理論における重要な計量がこのquasi-entropyの特別な場合になっていることを指摘した。例えば、与えられた関数を一般化対数関数とした場合、負パラメータを持つTsallis相対エントロピーになる。今回は、この作用素版を考察し、ヒルベルト空間上の可逆性を仮定しない一般の正作用素に対して負パラメータを持つTsallis相対作用素エントロピーを定式化し、その性質について多くの結果を得た。このことは、今後多くの応用が期待されるものである。一つは、多変数版作用素幾何平均は、量子情報理論における相対作用素エントロピーと密接にかかわっているが、それは、負パラメータを持つTsallis相対作用素エントロピーの極限として実現される。この事実は、多変数版作用素幾何平均の非可換構造の解明に大いに寄与することが期待される。これらの結果はしかるべきジャーナルに掲載または掲載予定である。詳細は研究発表の欄を参照されたい。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究目的は、作用素論で研究を進めてきたヒルベルト空間上の作用素不等式及び行列解析の手法をもとにして、情報幾何学や量子情報理論などの分野のさまざまな幾何学的様相に絡んだ評価を中心に考察し、作用素論的な枠組みの構築とその幾何学的構造の解明である。具体的には、多変数作用素平均の非可換幾何構造の解析および情報幾何学や量子情報理論への応用である。Lawson-Lim-Palfiaが、n個の可逆正作用素に対する多変数作用素幾何平均(Karcher幾何平均と呼ばれている)の定式化およびその諸性質を明確にしたが、構成上、可逆性は必要である。しかしながら、情報幾何学や量子情報理論への応用を考えた場合、その可逆性の仮定はきつすぎる制約になる。平成28年度は、多変数作用素幾何平均の構成を、相対作用素エントロピーの概念を用いることで、非可逆な枠組みで再構成することに成功した。そして、Lawson-Lim-Palfisによるやや技術的な証明を、作用素論的な枠組みで示すこともできた。本年度は、さらに、Tsallis相対作用素エントロピーの枠組みへの拡張を目指して、その定式化とその性質について明らかにすることができた。また、多変数版幾何平均の性質の一つとして、アダマール積との関連について、いくつかの結果も得ている。
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今後の研究の推進方策 |
平成28年度の調査・研究の結果を受けて、平成29年度以降は、作用素平均、作用素エントロピーや作用素環論から情報幾何学、量子情報理論、信号解析理論へのかかわりをより重視して、作用素不等式の幾何学的考察への応用に挑んでいきたい。さらに、情報幾何学を含む広大な幾何学の分野に関連する文献を充実させ、研究分担者と作用素論的な解釈での幾何学分野の考察を深めることにより、最新のこの分野にも応用ができることを目指したい。 また、日本数学会や京都大学数理解析研究所(RIMS)研究集会、作用素論・作用素環論研究集会、さまざまなWORK SHOPでの講演や参加を通じて、意見交換をし、研究成果の公表を通して、細部・最新の結果の情報収集にも努め、他の研究者との交流をさらに深め、場合によっては、共同研究を行うことも視野に入れていきたい。 平成28年度の調査・研究の結果やそれからの研究の深化に基づいて、その成果を報告などのPDFの形式でホームページ上で公開をする準備をしたい。それは、これからの研究者の最重要の研究課題として明確に伝えていきたいからである。また、それは、国内外の若手研究者と連携を深め、問題意識を共有することも視野に入れている。
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次年度使用額が生じた理由 |
国際学会への参加や関連する学会への参加などの旅費や研究目的遂行のための文献や複写の費用等を申請を行った。年度末、文献購入や学会への参加のための旅費及び文献複写代など微妙な額での請求になったため。
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次年度使用額の使用計画 |
平成29年度以降は、文献購入や複写代など、適宜に計画をしていきたい。
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