研究課題/領域番号 |
16K05257
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研究機関 | 日本大学 |
研究代表者 |
古市 茂 日本大学, 文理学部, 教授 (50299327)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 不等式 / エントロピー / 情報理論 / 行列解析 / 作用素論 |
研究実績の概要 |
研究代表者は近年,「作用素・不等式・エントロピー」をキーワードとして,研究活動を行ってきた.本研究課題「情報科学におけるエントロピー及び不等式に関する基礎研究」においては,スカラーおよび行列(作用素)に対して様々な不等式を研究対象とした.それらの結果を利用して,最終的には相対作用素エントロピーおよびその一般化について応用することを目的とした.また,量子エントロピーにおけるいくつかの数学的な新しい性質を導出することに成功した. 以下,具体的な研究結果について簡単に列挙する.(1)Mond-Pecaricの方法を利用して,作用素Bellmanの逆不等式を加法版および乗法版ともに導出した.(2)凸関数の性質を利用してHilbert空間上の作用素と正写像に対して指数関数的作用素不等式を導出し,その結果の応用として作用素の平均に関する大小関係を示した.(3)Jensenの不等式の作用素版を証明し,その応用としてAndoの不等式の改善を行った。また,作用素に対するホルダーの不等式のよりタイトな上界・下界を与えた.(4)作用素版のYoungの不等式のSharpな定数を示した。その結果,良く知られたTominagaの不等式の改善を行った.(5)MajorizationやKaramataタイプの不等式に関する研究を進めて行き,相対作用素エントロピーの上界・下界の改善を行った.(6)凸汎関数に対する平均とエントロピーに関する不等式を導出した.これは,凸解析の応用であるが,汎関数が作用素の一般化になっているので,従来の結果を含むものでありかつ,スカラーの不等式としても一部においては従来の結果と優劣の付かないものが得られている.さらに,Heinz平均やHeron平均に対しても同様の手法によって,一般的かつこれまでの結果を一部で改善する成果を得た.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
本研究費のおかげで,学会発表の方では,3件の国際会議での発表および2件の国内学会での講演を行うことができた.また,査読付き学術論文としては,10篇の論文を出版した.これについても本研究費によるところが大きい.さらに,1篇の共著(洋書)を出版することができた.これらの成果は想定を超えるものである.
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今後の研究の推進方策 |
本年度は本研究課題の最終年度であるので,これまで得られた成果を国内外の学会で発表していく予定である.同時にこれまでと同様に共同研究者らと下記に示す研究課題を遂行していく予定である. (1)正定値行列のある種の一般化となっているセクター行列に関する複数の研究課題を遂行する.まずは,TanとXieが示したセクター行列に対するYoungの不等式の逆不等式をKantorovich定数を用いて導出する.その結果として行列式やユニタリ不変ノルムに関する不等式も導出する.さらに,GargとAujlaによって得られた不等式を用いることによって,セクター行列に対して新しい特異値不等式や行列式に対する不等式を導出する.(2) R.Palらによって導入された重み付き対数平均に関して更なる研究を行う.特に,Hermite-Hadamard不等式を用いることで,リーマン積分可能な凸関数に対してある不等式を導きそれによって重み付き対数平均に関する不等式を導出して彼らの結果を改善することを目標とする.また,重み付き対数平均だけでなく,他の重み付き平均に関する性質についても研究を進める.(3)作用素単調関数や作用素二重凸関数などに対する固有値不等式について研究する.さらに別種類の作用素凸関数に関して研究を進める.Specht比を用いてAczel不等式の改善やその逆不等式について考察したり,Minkowski型の不等式についても成立の有無について考察していく.(4)上記でも分かるように凸関数は数学の多くの分野で重要な働きをしている.ここでは,凸関数に興味を持っている海外の研究者らと共同で新しい視点から凸性のある種の数量化を行えるか試みる予定である.また,対数凸関数の一般化として合成関数を考えて,それに対して数学的な考察を与えることを目標に研究を進める.
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次年度使用額が生じた理由 |
オープンアクセスジャーナルに複数投稿中であり,その費用を確保していたが,査読結果が年度内には決定しなかったため約20万円残額が生じた.これらの論文が受理された場合に論文投稿料に使用する予定である.
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