研究実績の概要 |
江戸中期数学の集大成である関孝和・建部賢弘・建部賢明の著した『大成算経』(全20巻、首巻、1710)に注をつけて英訳することを目的として『大成算経』の研究を行ってきた。中国元代の数学者朱世傑の『算学啓蒙』(1299)等の中国数学の影響下で発展した和算の成果である方程式論が『大成算経』では体系的に述べられている。2018年に、『大成算経』第12巻「形率」、同第17巻「全題解」、同第19巻「演題例其の1」の英訳を日本数学会のASPM79で公表した。2020年には、『大成算経』第1巻「五技」を雑誌SCIAMVS(Vol. 19)で発表した。その後も、その他の巻の英訳作業を継続しているが、進捗状況はまちまちである。『大成算経』第8巻「日用術上」および第9巻「日用術下」には着手した。『大成算経』第8巻「日用術上」に関する若干の成果は、雑誌「数学史研究第3期第1号(2022年7月)」で発表した。ここで扱われる江戸時代の実用数学は、日常の経済生活に密接に関連しているので、その解読には数学以外の考察も必要になる。
江戸時代の数学の実情を知るために、日本各地の図書館での資料調査が必要で、2023年12月に若干の調査を行った。
また、同時代の欧州での数学研究を知るために、イタリアに於ける数学史の研究にも着手した。イタリア・ボローニャの数学者Rafael Bombelli (ボンベッリ, 1526 -- 1572) は、関孝和より前にイタリアで代数学の基礎付けを行っている。ボンベッリは虚数単位の導入など代数方程式の解法の講師である。関孝和とは数学的直接の関係はないが、時代が近いことと研究内容の関連性から、ボンベッリの著書を紐解くことにした。2023年4月よりは、ボンベッリの著書『代数学』(L'Algebra) の精読を始めた。
|