佐藤超函数論は佐藤幹夫により提案された複素関数論に基づく一般化関数の理論であり,「(佐藤)超函数」は複素解析関数を用いて表される.超函数には不連続性,極,デルタ関数といった特異性をもつ関数が含まれ,これらは数値計算において扱いが厄介であるが,これらが数値的に扱いやすい解析関数で表されるということは,佐藤超函数論が特異関数を含む数値計算に有用であると期待できる.この観点から,佐藤超函数論の数値計算への応用を研究した. 第1年度は,数値積分法の研究を行った.これは平山弘の数値積分法に端緒を持つ研究である.平山の方法は,実積分を複素周回積分で表し台形則で計算するというものである.本研究ではこの数値積分法は佐藤超函数の積分であることを見抜き,この数値積分法を検証した.その結果,この数値積分は指数関数的収束し,さらに被積分関数が積分区間端点にベキ的特異性を持つ場合に特に有効であることがわかった. 第2年度には,第2種Fredholm積分方程式の数値解法の研究を行った.これは,佐藤超函数論に基づく数値積分法を積分方程式に応用したものである.数値実験によりこの方法の有用性が示された.ただし,積分方程式の離散化で得られる連立一次方程式が極めて悪条件であるという問題点も見られた. 第3年度(最終年度)には,Fourier変換の数値計算法の研究を行った.Fourier変換は科学技術計算で重要であるが,減衰の遅い関数に対しては積分計算が困難であるという問題がある.これに対し本研究では,佐藤超函数論におけるFourier変換の定義に従い,Fourier-Laplace変換により表されるある解析関数を計算し,その実軸上への解析接続によりFourier変換を計算する方法を提案した.数値実験により,この方法の有用性がわかった. 以上により,佐藤超函数論の数値計算における有用性が示された.
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