研究課題
本研究では、「サポート・ダイナミクス」の一つである「蒸発と拡散を伴う流れに現れる浸透領域(サポート)の変化」を数値的に再現する事と その数学的解析を目的とする。具体的には、境界上に周期的流入・流出を伴う条件を課した時に現れる解のサポートの分離・併合及びその反復性について扱い、このような現象の発生メカニズムを解明する数値計算法を構築することである。当該年度(平成29年度)は 前年度にOperator splitting methodの考えで構成した空間2次元の計算法を用いて数値実験を行い以下の事が得られた。1 モデル化した初期境界値問題においては 空間メッシュ幅を十分小にした時 数値データの安定性とその収束性が確認できた。その境界条件を時間変化させずに固定した時 時間無限大に相当するまでの数値計算から 定常解のサポートの形状が得られた。特に定常解の零点集合の測度が正になる場合と 零点集合が現れない解(正の解)が得られた。更に 時間発展の解が定常解に収束する事が数学的に示されたので これを国際会議にて発表した。2 境界条件に 1で得られた零点集合が現れる定常解の境界値とそれが現れない定常解の境界値を時間周期的に課した場合 計算結果から次の事が得られた。周期が十分長い時は 解の零点集合の出現・消滅の反復現象が現れ、その周期が短い時には零点集合が現れない。反対に 与える境界値によっては 周期を十分短くしても 零点集合が消滅しないという計算結果も得られた。国際会議でのこの成果発表と討議において"零点集合の反復出現"は境界条件に与える外力の反復性によって生じているので このような外力無しで 自発的に反復するメカニズムを考察する必要性が感じられた。その中でも良く知られたVan der Pol方程式についてのいくつかの知見が得られたのでその後の研究集会にて発表した。
2: おおむね順調に進展している
本科研申請にあたっては 空間1次元で用いた数理モデルとそれに対する数値計算法について研究調査を行なっていたので、それらの内容を前年度空間2次元に援用することが可能となり、それを当該年度(29年度)に活用し研究を進める事ができた。1 本研究で用いるモデル化した初期境界値問題で境界条件を固定した時 その定常解のサポートの形状が数値実験で得られた。更に時間発展の解が定常解に収束する事が数学的に示された。更に境界条件を周期的変化させた時 解の零点集合の出現・消滅の反復現象が数値計算から得られ、これについて部分的に数学解析が可能になりつつある。2 1の結果から 空間2次元でのサポートの分離を考察するには その前段階として 解の零点集合の発生 即ち 単連結集合(解は領域全体で正)から2重連結集合に変化するという現象に対する解析が重要であるとの知見を得た。3 2で得られた知見から 定常解の零点集合の測度が正であるような解の存在については これまで数学的に議論されていなかったので これについて当該29年度に構成した軸対称な定常解を援用して議論を進める準備ができた。
当年度は 前年度と同様に 数値実験、数値解の収束性、数値サポートの特徴に主眼を置いて研究を以下の通り進める。1) 前年度までに構成したOperator splitting methodによる計算法を用いて更に以下の事に留意しながら数値実験を続ける。i) 空間メッシュ幅を十分小にした時 数値データの安定性とその収束性を確認する。ii) どのような形状の初期サポートが時間発展とともに分離するか否かを数値的に調べる。一方、2つに分離しているサポートが併合するような初期サポートの形状も調べる。特に 分離した初期サポート間の位相的な位置関係と併合性について数値的に調べる。iii) どのような初期単連結なサポートが多重連結なサポートに変化するか否かを調べる。iv) 初期境界値問題においては 時間無限大に相当するまでの数値計算データから 定常解のサポートの形状を調べる。v) ii),iii),iv)について数学的検証を行うには更に正確な数値計算結果が必要とされる場合があるので そのために多倍長精度計算法を用いる予定である。2) 1)で得られた計算結果から 以下の事について数学的条件を探し証明を試みる。i) 各時刻を固定し、空間メッシュ幅を十分小にした時 数値解が安定であり且つ真の解に収束する事(このために Frechet-Kolmogorovのコンパクト性の定理の援用を図る)。 ii) サポートが分離するための十分条件、分離したサポートが併合するための十分条件、及び多重連結なサポートに変化するための初期形状に課すべき条件。 iii) 空間メッシュ幅をゼロに収束させた時、数値計算で得られた定常解が真の定常解に収束する事。
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Proceedings of EQUADIFF 2017 Conference, Published by Slovak University of Technology, SPEKTRUM STU Publishing
巻: EQUADIFF 2017 ページ: 359-368