研究課題/領域番号 |
16K05271
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
友枝 謙二 京都大学, 情報学研究科, 研究員 (60033916)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 数値解析 / 差分法 / 自由境界 / 界面ダイナミクス / サポート分離併合 / 零点集合の挙動 |
研究実績の概要 |
本研究では、「サポート・ダイナミクス」の一つである「蒸発と拡散を伴う流れに現れる浸透領域(サポート)の変化」を数値的に再現する事と その数学的解析を目的とする。具体的には、境界上に周期的流入・流出を伴う条件を課した時に現れる解のサポートの分離・併合及びその反復性について扱い、このような現象の発生メカニズムを解明する数値計算法を構築することである。当該年度(平30年度)は 前年度にOperator splitting methodの考えでこれまでに構成した空間2次元の計算法を用いて数値実験と数学解析によって以下の事が得られた。 1 モデル化した初期境界値問題においては 空間メッシュ幅を十分小にした時 数値データの安定性とその収束性が確認できた。その境界条件を時間変化させずに固定した時 時間無限大に相当するまでの数値計算から 定常解のサポートの形状が得られた。特に定常解の零点集合の測度が正になる場合と 零点集合が現れない場合(正の解)が得られることが 前年度続いて 数値計算で確かめられた。 2 零点集合が現れる定常解とそうでない定常解(正の解)の境目に相当する定常解を構成することが出来た。 それは 原点で零点を取る軸対称な解析解である。これと比較定理を用いて 零点集合が現れる定常解とそうでない定常解(正の解)の存在を示した。これを国際会議にて発表し 現在 論文投稿中である。 3 境界条件に 2で得られた零点集合が現れる定常解の境界値とそれが現れない定常解の境界値を時間周期的に課した場合 計算結果から、前年度得られていた次の現象が再度確認できた。周期が十分長い時は 解の零点集合の出現・消滅の反復現象が現れ、その周期が短い時には零点集合が現れない。更に与える境界値によっては 周期を十分短くしても 零点集合が消滅しない。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本科研申請にあたっては 空間1次元で用いた数理モデルとそれに対する数値計算法について研究調査を行なっていたので、空間2次元に援用することが可能となり、更にそれを当該年度(30年度)にも活用し研究を進める事ができた。 1 本研究で用いるモデル化した初期境界値問題で境界条件を固定した時 その定常解のサポートの形状が数値実験で得られた。多くの計算例からの示唆により 原点で零点を取る軸対称な定常解が解析的に得られた。数値計算からもその定常解の正当性が確認できた。 2 定常解の一意存在は 文献 "Elliptic Partial Differential Equations of Second Order(Gilbert-Trudinger 1977)"で得られていたが その零点集合の測度が正になる場合の解 及び 零点集合が現れない解(正の解)の存在については不明であった。これら両者の解の存在が確かめられた事が 当該年度(平30年度)の成果である。 3 境界条件を周期的変化させた時 数値計算で得られた"解の零点集合の出現・消滅の反復現象"が 2で得られた結果により正当化された。更に周期が短い時には零点集合が現れない計算例、更に 与える境界値によっては 周期を十分短くしても 零点集合が消滅しない計算例も得られた。この前者については空間1次元の場合には 数学的に実現可能な条件を導いた。しかしこれは 極めて極端な具体例になり 実際の計算例に対して 未だ ギャップがある。
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今後の研究の推進方策 |
当年度は 前年度と同様に 数値実験、数値解の収束性、数値サポートの特徴に主眼を置きながら 研究最終年度であることを踏まえて以下のように進める。 1) 前年度までに構成したOperator splitting methodによる計算法を用いて更に以下の事に留意しながら数値実験を続ける。 i) どのような形状の初期サポートが時間発展とともに分離するか否かを数値的に調べる。一方、2つに分離しているサポートが併合するような初期サポートの形状も調べる。特に 分離した初期サポート間の位相的な位置関係と併合性について数値的に調べる。 ii) どのような初期単連結なサポートが多重連結なサポートに変化するか否かを調べる。 iii) 初期境界値問題においては 時間無限大に相当するまでの数値計算データから 定常解のサポートの形状を調べる。 iv) i),ii),iii)について数学的検証を行うには更に正確な数値計算結果が必要とされる場合があるので そのために多倍長精度計算法を用いる予定である。 2) 1)で得られた計算結果から 以下の事について数学的条件を探し証明を試みる。 i) 各時刻を固定し、空間メッシュ幅を十分小にした時 数値解が安定であり且つ真の解に収束する事(このために Frechet-Kolmogorovのコンパクト性の定理の援用を図る)。 ii) サポートが分離するための十分条件、分離したサポートが併合するための十分条件、及び多重連結なサポートに変化するための初期形状に課すべき条件。 iii) 周期が短い時には零点集合が現れない計算例、更に 与える境界値によっては 周期を十分短くしても 零点集合が消滅しない計算例を正当化する数学的条件を求める。 3) 1),2)を踏まえて研究成果を纏める。
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次年度使用額が生じた理由 |
(理由) 当該年度(30年度)において ノートパソコン(28年度購入)を 計算データの画像処理、研究発表の原稿作成に用いた。その際 データの持ち運びが便利なUSBメモリー数本購入し それに計算結果等を収容し 研究会ので研究連絡に用いた。ノートパソコンの記憶容量にも少し余裕があったこと、及び ノートパソコンのPC部品(例えば電源アダプター, 内蔵バッテリー, 内蔵HDD)の突発的な故障で研究を中断させないためにも 当該年度(30年度)ではハードディスクは敢えて購入しなかった。そのために 次年度使用金額が生じた。
(使用計画) 当年度(31年度)は研究最終年度であり 更に数値計算を進めるので その際 計算データ及び画像データが当初計画よりも多く生じることが予想される。それを蓄積するためのハードディスク及びUSBメモリーの購入に次年度使用金額を充当する。まとめると 当年度の使用計画は 物品費として 書籍、数値計算の蓄積に伴うハードディスク、USBメモリー、文房具等に300千円+34,012円、国内国外での研究発表旅費として500千円、人件費・謝金として計算データの整理補助に50千円、その他として国際会議発表の登録料に50千円で計上し使用金額の合計は934,012円となる。即ち34,012円以外は交付申請書に記載した内容通りである。
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