研究課題/領域番号 |
16K05285
|
研究機関 | 広島国際学院大学 |
研究代表者 |
大塚 厚二 広島国際学院大学, 総合教育センター, 教授 (30141683)
|
研究分担者 |
高石 武史 広島国際学院大学, 総合教育センター, 教授 (00268666)
畔上 秀幸 名古屋大学, 情報科学研究科, 教授 (70175876)
木村 正人 金沢大学, 数物科学系, 教授 (70263358)
|
研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
|
キーワード | 偏微分方程式境界値問題 / 変分法 / 特異点 / 形状最適化 / 有限要素法 / 破壊力学 / 界面問題 / 数理モデル |
研究実績の概要 |
偏微分方程式境界値問題での解が特異性を持つ点の集合(特異点集合)の形状最適化問題を研究している。点pの任意近傍U(p)において解が滑らかさを持たないとき,点pを「特異点」と言う。 特異点集合として,(1) 境界,(2) 混合境界値問題では異なる境界条件の接合部,(3) 亀裂,(4) 方程式の係数が不連続な場合の不連続面(界面),(5) 空孔,(6) 介在物(inclusion),(7) 複合材料などを考えている。なお,数学的には(6)と(7)は(4)に帰着でき,(5)は内部境界と考えられる。最適化としては,エネルギーを最小化するエネルギー最小化を基本とし,エネルギー最大化となる平均コンプライアンス最小化問題,そして随伴法を用いることで2乗平均誤差最小化問題も対象とできる。また,亀裂では破壊力学でのGriffithのエネルギー平衡理論を用いる。研究対象は数学だけでなく,工学で有用な研究となっている。 申請者が破壊力学でのJ積分を一般化した一般J積分Jω(u,μ)を用いる。ここでuは解,ωは観察する部分を示す「視野」,μはベクトル場である。一般J積分Jω(u,μ)は方程式を考える領域Ωとωの共通部分Ω∩ωでの境界積分Pω(u,μ)と,Ω∩ωでの積分Rω(u,μ)の和で,一般J積分Jω(u,μ)視野内に特異点が無ければゼロとなり,特異点にのみ感度を持つ。 本理論は,特異点γの摂動γ(t)におけるエネルギーE(γ(t))に対して,感度解析として「主定理」ベクトル場をμ=dγ(t)/dt(t=0)としたとき,dE(γ(t))/dt≒-RΩ(u,μ),「最適形状探索」として畔上教授(名古屋大学)によるH1勾配法,数値計算法として有限要素法を用いて求めることができる。弱解に対して適用でき,視野を絞ることで,特異点毎の特性を調査できるのが本手法の特徴である。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
2次元破壊問題で提唱されていたJ積分を,1981年に3次元破壊問題に拡張したのが一般J積分である。その後,グリーン関数の形状感度解析であるHadamardの変分公式を一般J積分を用いて証明するため,一般J積分を1985年に楕円型方程式境界値問題へ拡張して「主定理」dE(γ(t))/dt≒-RΩ(u,μ)を証明した。2006年ごろの木村教授(金沢大学)との共同研究で,摂動 t→γ(t)に対する条件を弱めることができ,非線形問題でも「主定理」が成り立つことが示せた。また,2010年ごろには畔上教授の提唱するH1勾配法を用いることで形状最適化が数値計算できることが,申請者も関係するパリ第6大学で開発しているFreeFem++を用いて混合境界問題での形状最適化の計算できた。本研究での実施状況は次の通りである。 (1) 混合境界問題での形状最適化では,他で見られない複雑な形状を取ることが分かった。(2) 主定理だけでは全特異点を拾うので,特異点の特性を知ることが難しい。しかし,視野を分割するなどにより特異点を分離し,特異性を取り出すことができる。混合境界問題でのディリクレ境界,ノイマン境界,接合部の特性を理論的に取り出すことができた。(3) エネルギー最小化の数値計算では,特異性の高い部分から変形が始まり,解の勾配の高い部分と順に最適化していることが分かった。(4) 特に,初期段階では解uが3/2次の2乗可積分ソボレフ空間に属さない(境界へのトレースが2乗可積分にならない)特異点が弱い特異性となることが観察される。(5) 微分方程式の係数が不連続となる(界面や介在物)問題での主定理が証明できた。(6) これらを岩波‘数学’の論説として2017年7月ごろ出版されるので,興味をもつ研究者が増えると予想する。
|
今後の研究の推進方策 |
地方の大学に居て研究を続けるのは難しく、とくに研究動機と気力を維持するのは極めて困難である。1995年に矢富盟祥(金沢大学名誉教授)、三好哲彦(山口大学名誉教授)と共に創った破壊現象の数理を研究するグループを基に作った日本応用数理学会研究部会「連続体力学の数理」主査を務めることが研究持続の励ましである。また、最近では「破壊力学」,「形状最適化」,「複合材料の最適配置」,「危険な空孔の発見」など諸問題が数学的には「特異点の形状最適化」として統合できる見通しが研究を続ける動機になっている。 研究を持続させる力となっているのが平成28年度で16回を迎えた研究部会ワークショップ CoMFoS(Continuum Mechanics Focusing on Singularities)である。ワークショップも国際的になり相当な費用を要するが、その一部として本科研費を使いたい。また、日本数学会では理論研究を、日本応用数理学会では応用研究を発表するように計画している。本科研費を旅費等に充てたい。また、学会において分担者と情報交換を行う予定にしている。 最近、iPad Proを私費で購入し、Apple Pencilを使うことで、数値計算以外はiPadで管理できることが分かってきた。そのため、研究に必要な電子書籍や論文の購入に本科研費を使いたいと考えている。残念ながら、本大学は出版社との契約が無いため、他大学のように無料で論文を収集できないのが残念である。 以上、研究を持続させるためには、ワークショップCoMFoSの継続、日本数学会及び日本応用数理学会での成果報告と分担者との情報交換、そしてiPad Proへの情報蓄積等によって研究が推進できると考えている。
|
次年度使用額が生じた理由 |
日本数学会(2017年3月)への旅費が不足したので、大学の個人研究費を使い、残金を次年度使用とした。
|
次年度使用額の使用計画 |
来年度の旅費等に加える。
|