研究課題/領域番号 |
16K05292
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研究機関 | 電気通信大学 |
研究代表者 |
酒井 剛 電気通信大学, 大学院情報理工学研究科, 准教授 (20469604)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 大質量星 / 星形成 / 分子雲 / 重水素 / 赤外線暗黒星雲 |
研究実績の概要 |
大質量星の形成過程を明らかにするためには、大質量星形成前の段階にある低温な大質量高密度分子雲クランプを観測することが重要である。本年度は、低温で70ミクロンでも暗く見える大質量分子雲クランプに対するアルマ望遠鏡を用いた観測データを得た。観測データから、N2D+、DCO+、DCNといった重水素化分子の分布を明らかにした。その結果、イオン分子であるN2D+とDCO+は分布が大きくことなり、重水素化分子は、それぞれ異なる振る舞いをすることがわかった。この結果については、現在さらに解析を進めており、今後、モデル計算との詳細な比較を行う予定である。 また、赤外線暗黒星雲内部の極く若い原始星近傍の化学組成を、アルマ望遠鏡を用い詳細に調べた。その結果、この天体では、複雑な有機分子の存在量は、他の大質量星形成天体と同程度にもかかわらず、重水素化分子であるD2CO(とCH3OHの比)が他の大質量星形成天体と比較して、有意に多いことがわかった。有機分子は、主に星形成後にダスト上で形成されると考えられており、他の大質量星形成天体と、有機分子の存在量が似ていることは、星形成後の環境が他の大質量星形成天体と似ていることを示唆している。一方、D2COは星形成前の低温期に生成され、星形成後もある程度の時間星形成前の値を保持すると考えられる分子である。したがって、この結果は、大質量星形成の初期状態に多様性があることを示唆する結果と言える。しかし、まだサンプル数が少ないため、今後、サーベイ観測などを行い、この結果についてより詳しく調べる予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
今年度は、極く若い大質量星形成天体の化学組成について詳細に調べ、有機分子と重水素化分子の存在量について興味深い結果が得られた。これは、今後のサーベイ観測などさらに発展が期待できる成果である。 さらに、アルマ望遠鏡による、低温な赤外線暗黒星雲に対する重水素化分子輝線の新しい観測データを得ることができた。これについては、現在解析中であるが、興味深い結果が得られつつある。したがって、概ね順調に進展していると考えている。
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今後の研究の推進方策 |
これまでの結果、ある赤外線暗黒星雲内部の原始星近傍でD2COが多いことがわかったが、その天体の内部構造は、これまでの観測では明らかにされていない。この天体の内部構造を明らかにするためのアルマ望遠鏡を用いた観測提案を行っている。この観測提案が採択されれば、データ解析を行い、大質量星形成初期天体の物理的化学的性質をより詳細に明らかにすることができる。また、低温な大質量分子雲クランプの観測については、DCO+とN2D+の振る舞いが異なることがわかっており、それらの比が時間とともにどう変化するかなど、化学モデル計算と比較し、検討する。これにより、大質量星形成クランプ内部での分子雲コア形成のタイムスケールなど調べる。
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次年度使用額が生じた理由 |
2017度、本研究においては、データ解析を主に行っており、その結果を現在まとめているところである。そのため、2017年度の国外研究会への出張を見送っており、旅費に残額が生じた。残額は、2018年度に繰り越し、繰り越し分は旅費として使用する予定である。
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