研究課題
本研究の目的は、超高分解能X線マイクロカロリメータを用いて銀河団内部のガスの速度構造を精密に測定し、銀河団ガスの運動状態と形態の相関を明らかにすることである。さらに、ガス運動や超高温ガスの存在などに起因する銀河団質量の系統誤差を評価することで、将来の精密宇宙論に備えて高精度の銀河団質量推定法を確立することを目指している。本年度は、「ひとみ」衛星に搭載されたX線マイクロカロリメータで取得したペルセウス座銀河団のX線分光データの解析を進めた。銀河団中心領域におけるガス乱流測定の初期成果はNature誌に掲載済みである(Hitomi Collaboration 2017)。さらに広域の速度構造の決定を目指して、複数の観測領域の詳細な輝線分光から、ガス乱流やバルク運動を計測した。同時に、複数のプラズマコードの比較から輝線分光において原子核データベースの不定性の影響が無視できないことがわかったため、主要な元素のイオン化平衡の計算値の比較などを行い、今後の課題を明らかにした。以上の科学成果をまとめた論文を準備中である。平行して、すざく衛星のデータを利用して、複雑な衝突過程にあるA2744銀河団周辺のフィラメント構造に注目した研究も行った。銀河間中高温物質(WHIM)が生成される典型的な半径と予言される降着半径におけるX線スペクトル測定を初めて実現し、WHIMの存在を支持する観測結果を得た。またこれに基づいて将来のAthena衛星による観測シミュレーションも実施し、学会および投稿論文を通じて結果を公表した(Hattori, Ota, et al. 2017)。
2: おおむね順調に進展している
今年度計画していた「ひとみ」衛星搭載X線マイクロカロリメータによる銀河団のガス速度分布の詳細な測定や、それに影響を与えるプラズマコードの不定性の検討を行い、それぞれ論文執筆の段階にある。また、複雑な衝突合体の過程にある銀河団の周辺領域の中高温物質についても新しい観測的制限を得た。以上から、本研究はおおむね順調に進展している。
新たに広帯域X線データを用いて、銀河団の質量構造に大きな影響を与える衝突合体現象とそれに伴う高エネルギー現象を調査する計画である。この目的に対して、NuSTAR衛星による観測提案が採択されており、その硬X線撮像分光によって遠方銀河団中の超高温ガス・非熱的ガスの性質や磁場強度を従来よりも高い精度で決定する。また、最先端の宇宙論的シミュレーションを利用して、銀河団の質量構造や銀河間物質の探査を目指した将来X線ミッションの観測計画の検討も進める予定である。
すべて 2017 2016 その他
すべて 国際共同研究 (2件) 雑誌論文 (10件) (うち国際共著 8件、 査読あり 6件、 謝辞記載あり 3件) 学会発表 (9件) (うち国際学会 2件) 備考 (2件)
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