研究課題/領域番号 |
16K05298
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研究機関 | 北海学園大学 |
研究代表者 |
藤本 正行 北海学園大学, 工学部, 客員研究員 (00111708)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 恒星進化 / 漸近巨星分枝星 / 核種合成 / 遅い中性子捕獲過程 / 物質混合 / 連星系 / 質量放出 / 炭素星 |
研究実績の概要 |
本研究の課題は、恒星進化と核種合成の理論と銀河ハローの超金属欠乏星、とりわけ炭素過剰を示す恒星(CEMP星)の元素組成の観測との比較から、低金属量のもとでの漸近巨星分枝(AGB)星について、現行の球対称の枠組みを超える、炭素過剰の形成機構とs-過程元素合成過程の新たな理論を構築することである。また、それに基づいて、銀河系ハロー星の成り立ちを明らかにするとともに、初期宇宙における星・連星系形成過程、その初期質量関数と誕生後に蒙った連星系での変成過程、及び、星間ガスとの相互作用の過程を解明し、銀河系の初期形成史を紐解くことである。 この研究課題を達成するため、① 現行の球対称、熱対流による物質混合のみのという枠組みの下での研究を集約し、この枠組みを超える物質混合過程を考慮して、超金属欠乏AGB星の進化と核種合成の理論を展開する、② 我々のグループで開発してきたSAGAデータベースを利用して、元素組成の観測データとの照合を通して、様々な種別のハロー星の成り立ちを解読する、③ それから得られた知見を基に、階層的銀河形成、化学進化過程、星・連星系形成過程をシミュレーションを通して検証する、の3テーマを軸として研究を進めている。 本年度は、出発点として、前回の科研費Cで研究してきた超金属欠乏の下でのAGB星におけるs-過程中性子捕獲による核種合成の特性を整理した。それとともに、SAGAデータベースを用いて、銀河系ハロー星の中性子捕獲元素の組成を解析、その特性を詳らかにし、理論との照合を通して、銀河系ハロー星の素性を解明する作業を進めた。その結果、銀河系ハロー星に大きな割合を占めるCEMP星について、その形成過程についての統一的な理解を導くことが出来た。また、CEMP星の種族構成の金属量依存性から、銀河系形成初期における連星系の形成過程とその進化についての知見を導くことが出来た。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
超金属欠乏炭素星は、s-過程元素の過多を示すCEMP-s星と示さないCEMP-no星に大別され、前者は金属量 [Fe/H] > -3.3 でのみ観測される。これらの起源について、CEMP-sは連星系でのAGB星からの質量移送によるとされるのに対し、後者には、異論が多く、特異な初代星超新星起源であるなどとされている。これに対し、本研究では、CEMP-no星は炭素組成の多いHi-CEMP-no星と少ないLo-CEMP-no星に種別され、Hi-CEMP-no星はAGB 星でのs-過程元素合成の効率の違い、また、Lo-CEMP-no星は降着量の違いによって、その表面組成分布の特性が理解できることを示した。それとともに、CEMP-s 星で見られる、r-過程中性子捕獲に特有の元素とされるEuのs-過程に特有のBaの組成比の変動も、超金属欠乏星AGB星にs-過程元素組成の特性によってもたらされることを導いた。これによって、CEMP星の起源が連星系での質量移送によって統一的に理解できることを示した。 このCEMP星の連星起源シナリオでは、炭素組成の違いは連星系の軌道半径の違いによる。以前の研究で示した金属欠乏下ではs-過程元素合成は金属量に依存しないことから、CEMP-sとLo-CEMP-no星の分布の金属量による違いは、連星系の形成過程の金属量による変遷を意味する。Lo-CEMP-no星の母体となる長軌道の連星系は、金属量に依らずに形成されたのに対し、CEMP-s星の母体となる短軌道の連星系は、金属量の増加を俟って形成されたことになる。これは、宇宙初期における連星系形成について、初めて得られた知見であり、今後の初期宇宙における星形成の研究の貴重な指針となるものである。 これらの結果は、初期成果としては、期待以上のものである。
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今後の研究の推進方策 |
前年度に引き続き、研究テーマ①の恒星進化と核種合成の理論的研究、②の観測との照合による銀河系ハローの超金属欠乏星の特異な表面組成の分析とそれの起源の研究を継続する。 研究―テーマ①については、必要な物理過程を考慮したAGB星の進化のコードの拡充、s-過程の核種合成のネットワークとの整備と核種合成の計算コードの改良、をそれぞれ、関連を持たせて進めていく予定である。 研究テーマ②については、CEMP星の中性子捕獲元素の含有量に注目し、これら元素の組成分布の特徴、他の元素との相関等の解析を通して、CEMP星の特徴、各々の下位分類の共通点と相違点を明らかにし、超金属欠乏星の全体の形成過程、初期質量関数や連星系のパラメータの変遷過程を求めていく。 研究テーマ③については、本研究で得られたあらたな連星形成の変遷過程についての知見を踏まえて、宇宙初期における星形成の研究との関連について検討していく。 また、これまでに得られた初期成果についてまとめるとともに、論文を執筆をする。
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