研究課題
本年度は、前年度に進めてきた基礎的な研究、特に、金属欠乏星におけるs-過程元素合成過程の成果を踏まえて、銀河系ハローで観測される超金欠乏属星の元素組成の特性、その成り立ちと進化過程の解明、さらには、それを基に初期宇宙における星・連星系の形成過程の探査へと研究を進めた。銀河系ハローでは、炭素過剰を示すCEMP星が大きな割合(20~30%)を占め、しかも、特徴的な中性子捕獲元素の組成分布を示すことが知られている。本研究では、これまで金属欠乏下におけるs-過程中性子捕獲元素合成過程が金属量の多い現在の星とは異なることを示してきたが、中性子捕獲元素の観測との照合によって、元素合成過程の実態を解明するとともに、それを通して、全てのCEMP星から観測される中性子捕獲元素の存在量とその組成分布の変動が、連星系におけるAGB星から質量輸送、降着によってCEMP星が形成されたとする連星系説で説明できることを明確にした。すなわち、低質量のAGB星(太陽の約3.5倍以下)では、He殻燃焼の熱パルスで発生する対流層による水素層の浸食に伴い形成される13Cを中性子源とし、s-過程元素合成の効率は高いのに対し、高質量のAGB星(太陽の約3.5倍以上)では、殻燃焼の熱パルスに伴う表面対流層の浸潤でHe層から汲み上げられた炭素から水素殻燃焼、熱パルス対流層で形成される22Neを中性子源とし、効率は低く、観測されるs-過程元素の組成分布は、この2つの様式によって再現できる。CEMP星には、s-過程元素の過多を示すCEMP-s星と示さないCEMP-no星に分別してその起源の違いが議論されてきたが、CEMP-no星は、CEMP-s星に比して、単に、s-過程元素合成効率の低い高質量AGB星が主星の、あるいは、軌道半径が大きく輸送効率の悪い連星系で生まれたことになる。これらの成果は2論文にまとめて投稿した。
2: おおむね順調に進展している
超金属欠乏炭素星は、CEMP-s星とCEMP-no星に大別されるが、それ以外にも、r-過程元素に特有の組成分布を示すCEMP-r星、EuとBaの存在比が典型的なs-過程元素とr-過程元素の中間値をとるCEMP-r/s星の存在が識別されている。これらの特異な組成分布を示す変種についても、金属欠乏下でのs-過程元素合成過程の新たな特性の解明、および、s-過程元素の存在量が小さいCEMP-no星の場合に星誕生時に初期組成として取り込まれたr-過程元素の寄与との競合を考慮することによって、その起源を理解できることを示した。これによって、銀河系ハロー星の形成時におけるs-過程元素合成過程の全体像、中性子捕獲元素の組成の起源の統一的な描像を導くことが出来た。取り分け、CEMP-no星についても、中性子捕獲元素の組成分布が、炭素過多を示さない通常の超金属欠乏星と異なることをSAGA database に収集された観測データの解析を通して証明することが出来た。これは、CEMP星における炭素過多がs-過程元素を伴うことを意味し、これまで、異論のあったCEMP-no 星の起源についても、CEMP-s星と同様に連星系起源シナリオで、統計的には決着をつけたことになる。これらの結果は、CEMP星が、宇宙初期における星形成・連星系形成の過程の解明においても貴重な情報源、探査対象である得ることを明らかにし、宇宙初期の構造形成、銀河形成過程の研究に新しい扉を開くものである。これまでの観測から、CEMP-s星とCEMP-no星の金属量依存性が異なり、前者は[Fe/H] > -3.3 でのみ、後者は、最も金属量の少ない恒星を含めて金属量に依らず、存在することを予見されている。これから、直ちに、形成された連星系が金属量によって異なるなど、宇宙初期のおける星・連星系形成の歴史的な展開に新たな知見をもたらしている。
前年度に引き続き、研究テーマ①の金属欠乏下における恒星進化と核種合成過程の理論的研究、②の観測との照合による銀河系ハローの超金属欠乏星の特異な表面組成の分析とそれによるその起源と銀河形成過程との関連の研究を継続・発展させる。研究―テーマ①については、これまでの研究で、観測との照合を通して必要な物理過程の基本的な性質や機能についての条件を求めてきたが、それらの物理過程とそれについての条件が実際の金属欠乏AGB星において、どのように実現されてきたかの研究を、恒星進化コードの拡充と改良、s-過程の核種合成のネットワークと核種合成の計算コードの整備を通して、それぞれ、関連を持たせながら進めていく予定である。これを通して、現在球対称の枠組み留まっているAGB星の構造と進化、s-過程元素合成、混合の過程の描像の革新を目指したい。研究テーマ②については、CEMP星の中性子捕獲元素の含有量に注目し、これら元素の組成分布の特徴、他の元素との相関等の解析を通して、CEMP星の特徴、各々の下位分類の共通点と相違点を明らかにし、超金属欠乏星の全体の形成過程、その初期質量関数や連星系のパラメータの変遷過程を求めていく。研究テーマ③は、CEMP星の解析を通して得られた知見を基に、階層的銀河形成、星・連星系形成過程を検証することであるが、本研究で得られた星・連星形成の変遷過程についての新たな知見を踏まえて、宇宙初期における星・連星形成の全体像との関連を研究していく。具体的には、銀河系初期における金属欠乏下での星形成のシミュレーション研究との共同を通して、本研究の結果を踏まえて、星・連星系形成の過程についての具体的な描像、その基本的な性質の解明をめざす。また、現在投稿中の論文に加えて、この研究で得られた成果についてまとめ、論文を執筆をする。
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PASJ
巻: 69 ページ: issue 5
10.1093/pasj/psx059
JSPJ
巻: 86 ページ: 123901
10.7566/JPSJ.86.123901