研究課題
活動銀河核や超新星爆発により銀河から銀河間空間へのエネルギーや重元素の供給メカニズムを理解することは銀河の星形成から銀河団の進化を理解する上で非常に重要なフィードバック過程である。この過程を理解するために、2016年に打ち上げられた日本のX線天文衛星ASTRO-Hに搭載されたマイクロカリリメータ検出器を用いて銀河団中心領域の高温ガスの観測を行った。高温ガスの速度を初めて精密に測定することに成功し、その結果、活動銀河核によりガスの運動を引き起こしてガスを加熱することは難しいことがわかった。同じデータから銀河団中心領域での鉄属元素(Cr, Mn, Fe, Ni)の組成比が太陽とほぼ一致することから、太陽系近傍での元素合成と同じような元素合成史であること、さらに、Ia型超新星の爆発メカニズムは単独ではないことなどの議論を行い、まもなく投稿する予定である。可視光望遠鏡すばるによる銀河団の重力レンズ観測により発見された重力的な小構造についてのX線天文衛星すざくによりフォローアップ観測のデータの解析を行い論文として出版した。銀河団外部より降着してきた小規模銀河団が前方の銀河団ガスを加熱し、小規模構造のガスが剥ぎ取られていくことがわかった。宇宙最大の構造銀河団の成長の過程を捉えた研究だと言える。すざく衛星により銀河団の端まで銀河団ガスを検出することが可能となった。銀河群から銀河団まで銀河団ガス中の鉄質量と銀河の恒星の光度の比較を行った。その結果、銀河群には銀河団に比べてガス質量と銀河光度の比が小さい天体があるが、これらの天体では鉄の質量と銀河光度の比も小さく、銀河団ガスのエントロピーが銀河団外縁部でも大きいことがわかった。その結果として銀河群と銀河団の元素合成と銀河団ガスの加熱史の理解が進んだ。
4: 遅れている
日本のX線天文衛星ASTRO-H (ひとみ) 衛星は計画通り2016年2月に打ち上げられたものの、2016年3月末に通信不能となった。研究計画は主としてASTRO-H 衛星の観測データを用いる予定であった。ASTRO-H衛星の初期データを用いて、ひとみチームとしてNature論文を含む2本の論文がすでに出版済みであるが、解析チームの一員としてデータ解析の方針決定などに貢献を行った。同じ初期データを用いて、論文執筆のため複数のチームが作られ、その一つのチームのリーダーとして解析と論文執筆チームを主導した結果、2017年度春には複数の論文を投稿できる見込みである。ただし、本研究課題の計画であった多数の天体の観測データの解析はASTRO-H衛星では不可能となったため、研究計画の主要部分は数年遅れることになる。ASTRO-H衛星代替機を提案し、数年後の打ち上げを目指している。ASTRO-H衛星提案時からのサイエンスの進展を踏まえ、代替機提案に当たってそのサイエンスの目的、計画を取りまとめている。さらに、2005年打ち上げられ10年にわたって活躍した、すざく衛星の膨大なデータや現在も活躍中の欧米の衛星のデータを系統的に解析を行っている。さらに、すばる望遠鏡による可視光、近赤外観測のデータとX線観測データは相補的であり、可視光赤外線観測者と共同で観測を提案し、論文の執筆も行った。
ASTRO-H衛星により観測された銀河団中心領域の温度分布は加熱メカニズムを反映している。マイクロカロリメータ検出器により分離された多数の輝線の強度比から温度分布を測定する。2017年度中には論文を投稿できる見込みである。さらに、ASTRO-H衛星とすざく衛星やXMM衛星のデータを同時に解析を行い、酸素からニッケルまで多数の元素の組成比を調べ論文としてまとめる。 ASTRO-H衛星により鉄イオンの共鳴線と禁制線を分離することができた。これらの輝線の強度比からは共鳴散乱の効果を調べ、ガスの運動を制限することができる。共鳴散乱の効果をシミュレーションにより調べ、観測データと比較し、論文としてまとめる。すざく衛星やXMM衛星により観測された多数の銀河団のデータを解析し、銀河団ガスのケイ素やマグネシウム、鉄の分布を求め、銀河の分布と比較することにより、銀河団銀河での星の形成史を調べていく。元素の組成比からその主要な起源である重力崩壊型超新星とIa型超新星の寄与を求め、重力崩壊型超新星により合成されたケイ素やマグネシウムと銀河の恒星の光度との比から星の初期質量関数を調べることができる。また遠方の銀河団の元素の組成比、銀河の星の質量との比から銀河団の重元素合成史を直接調べることができる。銀河団ガスのエントロピーは銀河団ガスの加熱史を調べる重要な指標である。すざく衛星で銀河団の端までエントロピーを評価することが可能となった。X線観測の結果は重力レンズの観測や逆コンプトン散乱の観測結果と相補的である。微弱な放射であるために、まずはバックグラウンドを調べ系統誤差を評価する。その後、多数の銀河団の観測と多波長の観測結果を比較していく。
少額の残額が残ったが、研究に必要な物品の購入や旅費には少なかったので、翌年度と合わせて使用することにした。
翌年度の交付金と合わせてPCの購入に充てる予定である。
すべて 2017 2016 その他
すべて 国際共同研究 (2件) 雑誌論文 (4件) (うち国際共著 3件、 査読あり 4件) 学会発表 (9件)
The Astrophysical Journal
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10.3847/2041-8213/aa61fa
Publications of the Astronomical Society of Japan
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