研究課題/領域番号 |
16K05300
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研究機関 | 東京理科大学 |
研究代表者 |
松下 恭子 東京理科大学, 理学部第一部物理学科, 教授 (50366423)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | X線天文学 / 銀河 / 銀河団 / 化学進化 / 銀河団ガス |
研究実績の概要 |
2016年に打ち上げられたX線天文衛星ひとみは、打ち上げ一ヶ月で通信が途絶えたものの、初期観測によりペルセウス座銀河団など複数の天体を観測していた。その結果、これまでよりもはるかにエネルギー決定精度のよい観測データが得られた。我々は主にペルセウス座銀河団のデータを解析し、銀河団中心部の重元素組成比や温度構造、速度構造について、画期的な成果を得ることができた。銀河団ではバリオンの主成分は高温の銀河団ガスであるが、この銀河団ガスに含まれるクロム、マンガン、ニッケルなどの鉄属元素の組成をはじめて精密に測定することに成功し、ケイ素から、クロム、鉄、ニッケルにいたるまでその組成比は太陽とほぼ同一であることを発見した。銀河団の主要銀河は我々の天の川銀河とは異なり楕円銀河であるが、渦巻銀河でも楕円銀河でも太陽組成が現在の宇宙の平均的な化学組成であることを示唆するとともに、鉄属元素の主要起源であるIa方超新星爆発の性質にも制限を与える結果を得ることができた。 同じデータからはこれまで測定できなかたった多数の微弱な輝線の検出に成功した。特に多数の鉄の輝線から、銀河団ガスの電離温度や励起温度などを測定することができ、観測された多数の輝線の強度比は中心に向かって滑らかに下がる温度構造でよく説明できることがわかった。 ヘリウム状鉄イオンの共鳴線がはじめて分離されたものの、理論モデルではその強度が再現できないことが発見された。 銀河団ガスに運動がなければ、共鳴散乱により共鳴線の強度が下がることが予測されていた。我々は、共鳴散乱時のエネルギー変化や、ガスの運動の構造を取り入れた共鳴散乱のシミュレーションを行うことにより、観測された共鳴線の強度、幅をともに再現することに成功した。この結果は、輝線幅による速度構造の測定と相補的といえる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
当初の計画ではひとみ衛星は順調に観測を続けていると仮定していたが、実際は、打ち上げ一ヶ月で消息が途絶えたため、数年間観測を行う予定が数週間のデータに限られた。 昨年度は、貴重な初期観測のデータから得られる情報をすべて取り出し、論文としてまとめることに成功したと自負している。
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今後の研究の推進方策 |
ひとみ衛星の観測データの解析を中心に研究を行う計画であったが、それは不可能になった。 ひとみ衛星の代替機は数年後の打ち上げを計画しており、ひとみ衛星の観測成果や検出器の変更も踏まえ、今後は代替機の観測計画をたてる予定である。 また、2005年に打ち上げられたすざく衛星の残した観測データ、特に銀河団の外縁部のデータを解析して、論文にまとめる計画である。バックグランドや望遠鏡の特性など系統誤差の評価をまずは行う。
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次年度使用額が生じた理由 |
ひとみ衛星の成果発表のために海外の学会への参加を予定していたが、若手に参加してもらったために旅費を使用しなかった。
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