研究課題/領域番号 |
16K05303
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研究機関 | 国立天文台 |
研究代表者 |
齋藤 正雄 国立天文台, TMT推進室, 教授 (90353424)
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研究分担者 |
西合 一矢 国立天文台, チリ観測所, 特任助教 (30399290)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 星形成 / 連星 / 原始惑星系円盤 / 質量降着 |
研究実績の概要 |
太陽程度の重さの連星形成を理解するため、南米チリにあるアルマ望遠鏡を使いおおかみ座星形成領域に存在する原始星候補天体の高空間分解能電波観測を実施した。観測データのうち、主として連続波の解析を進め、連星の割合、連星の間隔、連星のフラックス比を調べた。 解析の結果、37天体中2天体が原始連星候補天体であり、おおかみ座領域はこれまでの観測と比べ連星の割合が低いことが分かった。ただ、なぜ連星割合が低いのかはまだ不明である。また、両天体ともに連星の間隔は数10au程度(1 auは地球と太陽の距離)であり、典型的な間隔であった。ただし、フラックス比については2つの天体で大きく異なっている。J160708-391408は主星と伴星に付随する連続波フラックス強度はそれほど違いなかったが、Merin28では1桁以上違っていた。この違いは連星への物質降着に起因するが、星近傍のガスの運動が不明なため、まだわかっていない。 報告者は2017年にチリで開催された星形成の研究会で招待講演を行い、上記の研究成果を発表した。またJ160708-391408とMerin28については連星系のガス観測からその運動を探るため、高感度ガス観測をアルマ望遠鏡に提案すべく協力研究者との議論をすすめた。 さらに、分担研究者はアメリカにある巨大電波干渉計(JVLA)観測による0.1秒角高解像度観測でへびつかい座の原始星 VLA1623が周期300年の原始星連星系であることを発見した。これは激しくガスを取り込んでいる非常に若い星であり、さらなる研究の格好のターゲットである。 我々はこうした類似研究を含め、我々のおおかみ座のデータと他観測データの類似点、相違点の比較から、おおかみ座星生成領域の特殊性の解明やより一般的な連星形成・進化の物理を明らかにしていく。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
H28年度は観測天体の連続波データ解析に基づき、2天体を原始連星候補天体として同定し、連星の割合、連星の間隔、連星の電波強度比を画像上で調べた。おおかみ座星形成領域はこれまで観測された他領域と比べ連星の割合が低いことが分かった。そして連星の間隔は両天体ともに数10 au程度であり、典型的な連星の間隔であった。ただし、連続波強度についてJ160708-391408は主星と伴星の比が0.44であったが、Merin28では0.1以下であることもつきとめた。 当初予定していたビジビリティ―を用いた解析は取得したデータの信号雑音比が低く、実施を試みたが、マップ解析に比べて優位性がなく断念せざるをえなかった。 また連続波データに加えてCOデータ、HCO+データなどの解析から原始連星候補天体を取り巻くガスの運動に迫る予定であったが、残念ながらHCO+は未検出であり、ガス運動を導くことはできていない。さらに、より進化の進んだ連星を調べるVLTデータの取得についても協力研究者が休職し、まだ比較は進んでいない。 成果発表については、ここまでまとめた結果をチリでの国際研究会の招待講演で報告者自身が発表した。研究会直後に、この課題の研究協力者がおおかみ座星形成チームの会議を開催し、ここまでの進捗状況、今後の方向性などを議論した。この点については順調にすすんでいると考えている。 やや遅れている理由としては研究代表者がH28年度に同じ組織内とはいえ、異動したため、引き継ぎや新規業務に時間を取られたためである。また、研究分担者も組織を異動したため、共同で行うシミュレーションの部分を十分進めることができなかった。
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今後の研究の推進方策 |
観測データの全体像がわかったので、今後はここからどのようなことを引き出し、連星解明につなげていくかを深く掘り下げていく。特に原始連星候補天体についてはどのようにガスが星に落ちていくかが重要であるので、高分解能のガス観測をアルマ望遠鏡に提案し、原始連星をとりまくガスの運動を詳細に描き出したい。それによってどのようにガスが連星に落下するのか、その際にどのような構造が出現するかをシミュレーションなどと突き合わせて連星形成の物理の解明をさせたい。 この分野はアルマ望遠鏡の登場で類似観測が積み上がりつつあり、他の領域の類似データが出てくると期待されるため、統計的な相違点、および個々の天体の相違点と2本柱で研究を進める。また、分担研究者の進めている原始連星VLA1623に関しては、チリにあるALMA望遠鏡のアーカイブ観測データを合わせて、周囲のガス円盤と連星の力学構造に関する研究を進めている。この天体に対しての高分解能での追加観測の提案を行い原始連星の軌道運動の直接検出を試みる予定である。 一方、生まれたての星である原始星よりも進化が進み惑星形成段階にあるT-タウリ型星の連星に関する研究は一部データ取得が完了したため、協力研究者へ解析を進めるよう依頼し、われわれのデータと比較する予定である。 なおアルマ望遠鏡のおおかみ座の原始連星天体の連続波解析の結果についてはH29年度内に査読付き論文として出版したい。
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備考 |
Soul of Lupus with ALMAは申請者がチリ滞在中に筆頭研究者として立ち上げた国際プロジェクトであり、webも申請者が製作した。ただし、申請者が日本へ異動となったため、現在はチリのde Gregorio博士が引き継いでいる。
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