研究課題/領域番号 |
16K05307
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研究機関 | 東洋大学 |
研究代表者 |
田代 基慶 東洋大学, 理工学部, 准教授 (10447914)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 理論化学 / 計算化学 / 星間分子 |
研究実績の概要 |
天文・宇宙物理分野で分子や物質の反応が重要な役割を果たす広範な現象に対し、理論化学的手法を適用して問題解明へ貢献することが本研究の目的である。具体的な研究対象は2つあり、1つ目は気相・星間塵表面での複雑な分子生成に関わる化学反応素過程の理論化学的取り扱いである。本計画では特に、複雑な星間有機分子生成に関連する気相・星間塵表面それぞれの反応素過程の詳細を明らかにする。本研究のもう一つの対象は、原子・分子超精密分光を用いた非加速器素粒子物理実験への理論化学的立場からの実験提案・結果の予測・サポートである。これら素粒子関連の研究は、生物のアミノ酸がL体のみから出来ている非対称性、我々の宇宙の物質・反物質の非対称性などを解明する上で重要な役割を果たすと考えられており、原子分子分光実験の計画・解析には理論化学的手法が不可欠である。 今年度は主に本計画の2つ目の研究対象、非加速器素粒子物理実験と関連した課題に取り組んだ。素粒子の1つであるニュートリノには未だ決されていない基礎的なパラメータ(絶対質量,Dirac/Majoranaの区別など)が存在している。最近、原子・分子を用いる精密分光実験を用いて、これらのパラメータを決定できる可能性が議論されている(Prog. Theor. Exp. Phys. 04D002 (2012)など)。これらの実験では光子が1つとニュートリノ対が原子・分子の励起状態から放出されるRENP(radiative emission of neutrino pair)過程を利用するが、その対象としてどのような原子・分子が良いかをあらかじめ理論計算によって絞り込むことが望まれている。本年度は原子でのニュートリノ放射率を見積もる準備として、SrやXe等の原子を対象としてGRASP2Kを用いた相対論的電子状態計算を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
申請時(研究所)と研究開始時(大学)の所属が変化したため、研究環境や割り当てることのできるエフォートに大きな変化があった。特に、エフォートに関しては申請時に想定していた量の1/4程度に留まるのではないかと考えている。したがって、計画していたよりも研究計画はやや遅れているのが現状である。ただし、非加速器素粒子物理に関連する課題については概ね順調に進んでいる。
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今後の研究の推進方策 |
本計画の次年度以降については研究に割けるエフォートも増える見込みであり、申請時の想定に近い形で計画を遂行できるのではないかと考えている。今後の計画については以下の通り。 まず、申請者がこれまで開発してきた第一原理R行列法の手法を発展させて電子・分子衝突過程の計算で振動・解離といった核運動の効果を取り扱えるよう改良し、プログラム実装を行う。その後は、電子・分子衝突を取り扱うことのできる理論・プログラム開発を行うと同時に星間分子反応への応用を進める予定である。理論開発面では、電子・分子衝突過程において空間的に広がった分子軌道を取り扱うための基底関数の検討を行う。これまでの取り扱いでは標的分子・衝突電子双方ともにガウス型関数の線形結合を用いて軌道を表現していたが、この方法では標的分子が大きい場合や価電子軌道がdiffuseで広がっている場合に数値的な不安定性が発生し易い。また、R行列法で用いるInner Regionを大きく取ることが困難であるという点も問題である。これらの問題を回避するため、本計画では衝突電子を表現する軌道関数をガウス関数以外の関数で表現することを検討する。具体的には、スレーター型関数・スプライン関数などを導入してガウス型関数を用いた場合との計算時間の違い、適用範囲の違いなどを探索する予定である。 弱い相互作用・電磁相互作用に由来する光子・ニュートリノ対放射過程に関する研究項目については、今年度に引き続き原子を対象とした計算を進める。現在使用中の相対論的電子状態計算プログラムは原子に特化しているために精度を上げることが可能であるものの、ニュートリノ対の放射を取り扱う機能は入っていない。まずは光子・ニュートリノ対放射過程を取り扱うことができるようプログラムの改造を行う計画である。
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次年度使用額が生じた理由 |
申請時と比較して、想定よりも旅費を使用する機会が少なくなったために大幅に旅費が余ることになった。一方で、計画遂行には高精度分子動力学計算が必要となったために、商用分子動力学力場パラメータセットを購入した。これらの差額は新たに計算機等を購入するには不十分であったために、余った分を次年度に使用することとした。
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次年度使用額の使用計画 |
研究を効率的に遂行するためには計算リソースが必要であるため、本年度未使用額を次年度以降の助成金に加えてワークステーション等の計算機を導入する計画である。
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