天文・宇宙物理分野で分子や物質の反応が重要な役割を果たす広範な現象に対し、理論化学的手法を適用して問題解明へ貢献することが本研究の目的である。具体的な研究対象は2つあり、1つ目は気相・星間塵表面での複雑な分子生成に関わる化学反応素過程の理論化学的取り扱いである。本計画では特に、複雑な星間有機分子生成に関連する気相・星間塵表面それぞれの反応素過程の詳細を明らかにする。本研究のもう一つの対象は、原子・分子超精密分光を用いた非加速器素粒子物理実験への理論化学的立場からの実験提案・結果の予測・サポートである。これら素粒子関連の研究は、生物のアミノ酸がL体のみから出来ている非対称性、我々の宇宙の物質・反物質の非対称性などを解明する上で重要な役割を果たすと考えられており、原子分子分光実験の計画・解析には理論化学的手法が不可欠である。 今年度は主に星間塵表面での分子生成過程に関わる研究を推進した。特に、HCOやCH3OH等の分子を対象とし様々な組成を持つ星間塵表面への吸着パターンや化学反応時のエネルギー散逸等を調査した。まず水分子および一酸化炭素のクラスターを用いて氷で覆われた星間塵表面のモデル化を行い、各種分子の吸着場所・吸着エネルギー、化学反応エネルギーが分子脱離に用いられる様子などを量子化学計算、第ー原理分子動力学計算などを用いて計算した。また、星間塵表面に氷が無い場合としてカンラン石のクラスターモデルを作成し、同様の解析を進めた。
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