研究課題/領域番号 |
16K05309
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研究機関 | 国立研究開発法人宇宙航空研究開発機構 |
研究代表者 |
海老澤 研 国立研究開発法人宇宙航空研究開発機構, 宇宙科学研究所, 教授 (70421857)
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研究分担者 |
辻本 匡弘 国立研究開発法人宇宙航空研究開発機構, 宇宙科学研究所, 助教 (10528178)
吉田 鉄生 愛媛大学, 理工学研究科(理学系), 特定研究員 (20727747)
中川 友進 国立研究開発法人海洋研究開発機構, 地球情報基盤センター, 特任技術副主幹 (50513454) [辞退]
野村 真理子 慶應義塾大学, 理工学部(矢上), 研究員 (50756351)
大須賀 健 国立天文台, 理論研究部, 助教 (90386508)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | ブラックホール / 活動的銀河中心核 / アウトフロー / X線天文学 |
研究実績の概要 |
今年度は、主に数値シミュレーションによって活動的銀河中心核から期待されるX線スペクトルと時間変動を計算し、XMM-Newtonの長時間観測データと比較することによって、コンパクト天体周辺の物理状況を調査した。数値シミュレーションにおいては、主に以下の二つの成果を得た。 (1)活動的銀河中心核からの鉄K輝線は見かけ上広がっており、周辺のエネルギーバンドと比較すると変動率は顕著に低く、到達時刻にはラグがある。それを説明するモデルとして、ブラックホール極近傍で、小さなX線放射源が降着円盤を照らしているとするものがある。このモデルでは、放射源の高さが変化することによって、一般相対論的効果で光路が曲がり、特徴的な時間変動が説明されるとする。 私たちは、一般相対論効果を取り入れた光路計算を行い、期待されるスペクトルと時間変動を計算した。その結果、通常の鉄組成で観測される鉄輝線のラグは説明されることを確認したが、時間変動率は観測値よりもはるかに小さかった。実際、観測された時間変動率を説明するには鉄組成を約10倍にすることが必要であるが、それはラグの観測量と明らかに矛盾する。よって、このモデルでは鉄輝線変動を定量的に説明できないと結論づけた。
(2)鉄輝線のラグを説明するもう一つの可能性として、ブラックホールから遠方に球殻上に分布する物質を考えた。視線外のX線が球殻に当たって蛍光鉄K輝線を出すと、輝線の光路は視線上のX線よりも長いため、ラグが生じる。このような状況を仮定し、モンテカルロシミュレーションを行って、すべてのX線光子の経路を追い、ラグを計算した。その結果、このモデルで、観測される鉄輝線のラグを定量的に鉄瞑することができた。また、アウトフローによって球殻が外側に移動していくことを仮定すると、ドップラー効果によってラグのエネルギー依存性が幅を持つことを示した。これが観測とよく一致する。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
昨年度、「ひとみ」衛星が、打ち上げ後短期間の観測後に運用を停止するという想定外の事象が発生し、当初想定していた「ひとみ」搭載カロリメータを 用いた高分解能分光観測はできなくなった。その反面、XMM-Newtonのアーカイブデータを詳細に解析するとともに、 それを説明するための理論的考察に時間をかけることができ、観測をよく説明するモデルを構築することができた。
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今後の研究の推進方策 |
今年度構築したアウトフローモデルに於いては、ブラックホール周辺の幾何学(密度、圧力、温度分布)は単純なものを仮定した。今後、より現実的な数値流体シミュレーションの出力結果をブラックホール周辺の幾何学として、モンテカルロシミュレーションを行う。これによってX線スペクトルと鉄輝線の時間変動を計算し、XMM-Newton衛星による高精度の観測データを再現することを目指す。
ひとみ衛星後継機として、XARM(X-ray Astronomy Recovery Mission)プロジェクトが立ち上がった。XARMにはカロリメーターが搭載される予定である。今回構築するアウトフローモデルを用いて、カロリメーターで活動的銀河中心核からどのような特徴的スペクトル構造が観測されるかを予言する。様々な天体についてシミュレーションを行い、XARMによる初期観測天体を検討する。
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次年度使用額が生じた理由 |
年度内に投稿した論文投稿料の請求が次年度にずれ込んだため。
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