研究実績の概要 |
ブラックホールは少なくとも古典的には、質量、電荷、角運動量の3つの量だけでその時空は特徴づけられる。これらの量は「毛」と表現されるが、一方この少なさが、ブラックホールが持つ膨大な量のエントロピーとの間に矛盾があるように思われてきた。質量が大きいほどエントロピーは増加するので、質量無限大極限で、この問題は先鋭化している。一方この極限で、事象の地平面近傍領域の時空曲率は零に近づき、平坦なミンコフスキー時空で記述可能となる。地平面は、平坦時空を一様加速度運動する観測者に対するリンドラー地平面へと写像される。この場合、その総和が無限大量のエントロピーになるミクロな物理状態の存在はこれまで謎とされてきた。[1]の論文では、この問題に対する説得力のある仮説を提示し、その詳細な解析を行った。一般相対論の一般座標変換の一部はリンドラー地平面近傍ではゲージ自由度から物理的自由度を創発することが示された。異なる多数の物理的状態が出現し、ソフトヘアと呼ばれる電荷量で区別することができる。この状態が質量無限大極限でのブラックホールエントロピーの起源になっていると考えることができる。この電荷は地平面を通過する波の情報を重力的に記憶する機能を持つが、純粋な重力波の情報は蓄えられないことも示された。この性質は重要であり、自由度を量子化したときに生じる量子複製不可能定理に関するパラドクスを解決する鍵になっている。
[1] Gravitational memory charges of supertranslation and superrotation on Rindler horizons, Masahiro Hotta, Jose Trevison, and Koji Yamaguchi Phys. Rev. D 94, 083001, Published 3 October 2016
|