研究課題/領域番号 |
16K05311
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
堀田 昌寛 東北大学, 理学研究科, 助教 (60261541)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | ブラックホール / 量子情報 / エンタングルメント / 量子情報物理学 |
研究実績の概要 |
ブラックホール蒸発におけるブラックホールとホーキング輻射の間の量子もつれの時間発展について研究を行った。ホーキング輻射の温度とブラックホールのエネルギーと関係式を再現する、量子ビットモデルを具体的に構築し、エンタングルメントエントロピーが熱的エントロピーやベッケンシュタイン-ホーキングエントロピーよりもはるかに大きいことが分かった。量子もつれの時間発展に対しては、広く支持されてきたペイジ曲線と呼ばれる仮説があったが、その予想を覆す結果であり、その論文はPhysical Review Lettersに受理された。蒸発するブラックホールは輻射でエネルギーを失うと、その温度が上がる負の比熱という特徴があったが、これを重力場に特有な零エネルギー励起であるソフトヘアの蒸発を解析に採り入れたことで再現できた。熱輻射を出すセクターとブラックホールの部分系が欠落した真空セクターの2つが現れるため、系の熱的エントロピーは地平面面積に比例するベッケンシュタイン-ホーキングエントロピーより大きくなり、また真空状態とのもつれの寄与からエンタングルメントエントロピーは熱的エントロピーより更に大きくなった。 またブラックホールなどの曲がった時空における量子情報物理学の理解を深める実験の理論的サポートも起こっている。量子ホール系のエッヂ電流を用いて本研究者が提案している曲がった時空上での量子エネルギーテレポーテーションを実装する予備実験として、基盤上を運動するエッジ電流励起の透過、反射を制御する実験論文に参加し、Applied Physics. Lettersに受理された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
ブラックホール蒸発におけるペイジ曲線仮説は多くの研究者によって受け入れられてきた自然な仮説と考えられてきたが、それが実際には成り立たない可能性を初めて示すことができた。またホーキングがベッケンシュタイン-ホーキングエントロピーを導入したときに用いた論理も必然を失い、これが熱的エントロピーやエンタングルメントエントロピーよりはるかに小さい可能性を明らかにできたことは大きい。このためハイインパクトファクターの雑誌であるPhysical Review Lettersにも論文が受理されることとなった。
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今後の研究の推進方策 |
最終年度であるため、より広い視野で量子重力理論構築に寄与する量子情報物理学の基礎を発展させたいと考えている。ブラックホール蒸発における情報喪失問題では、自由落下する観測者と、加速しながら地平面外部に留まる観測者では、時空の記述が異なる可能性がブラックホール相補性として提案されている。情報理論としての量子力学では一面からは量子的対象物とも扱える観測者の存在とそのモデル化は重要である。どのように量子時空を観測者は認識し、計量していくのかを探るため、量子コンピュータや量子AIとしての量子深層学習の基礎的研究と、時空計量への応用も考えていきたい。
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次年度使用額が生じた理由 |
現在年度をまたいで論文原稿を作成中であり、その原稿の英文校正料を残しておいたため。新年度にすぐに使用する予定。
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