研究実績の概要 |
ブラックホール蒸発において、ホーキング輻射とブラックホールの間の量子もつれの時間発展は、これまで明確な理解がなされていなかった。有力な仮説としては「ペイジ曲線仮説」が提案されている。蒸発後期には、地平線面積に比例するベッケンシュタイン-ホーキング(BH)エントロピーと、ブラックホールの熱力学的エントロピーと、エンタングルメントエントロピーが高い精度で一致するという内容である。これに対して、本研究遂行者である堀田を第一著者とする論文(Phys. Rev. Lett. 120, 181301 (2018).)では、この仮説が成り立たない可能性を指摘した。蒸発をするブラックホールから出るホーキング輻射と同じ熱的性質を示す量子ビット多体モデルの構築に成功し、そのモデルでペイジ曲線仮説に出てくる3つのエントロピーは互いに大きく異なる値をとることを示した。特に量子もつれ指標であるエンタングルメントエントロピーはBHエントロピーよりはるかに大きな値をとれるため、これまで議論されてきたブラックホール防火壁パラドクスなどを根本から見直す必要性がでてきた。 ブラックホール蒸発がユニタリー性を満たしつつ、熱輻射だけが空間に残される場合、無限遠方に伝搬するそのホーキング粒子間の相互作用も小さくなるため、自由場のホーキング粒子の純粋化パートナーの研究はブラックホール情報喪失問題において重要である。我々はこれに対して任意のホーキング粒子モードを固定したときのパートナー粒子モードを求める一般公式を構築することに成功した(Prog. Theo. Exp. Phys., Issue 10 (2018);J. Phys. A: Math. Theor. 52 125402 (2019))。これはどのように初期の重力崩壊の詳細情報がホーキング粒子とパートナーに記憶されるのかと言う問題に対して大きな示唆を与える。
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