研究課題/領域番号 |
16K05314
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研究機関 | お茶の水女子大学 |
研究代表者 |
曹 基哲 お茶の水女子大学, 基幹研究院, 教授 (10323859)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 超対称大統一模型 / ゲージ結合定数の統一 / レプトン・フレーバーの破れ |
研究実績の概要 |
(1)超対称大統一理論における、ゲージ結合定数の統一可能性に関する研究を行った。E6対称性を持つ大統一模型では素粒子標準模型のSU(3), SU(2), U(1)ゲージ対称性に加えて余分なU(1)ゲージ対称性が存在し、またE6群の基本表現の大きさから、3世代を構成する物質場の数が標準模型よりも増える。そのため、ゲージ相互作用が漸近的自由とならない。本研究ではゲージ結合定数の2ループの繰り込み群方程式(RGE)を考慮した場合に模型がで摂動論的に振る舞うための条件を調べた。2ループ補正と同レベルの補正としては軽い質量スペクトル、及び重い質量スペクトルによる敷居補正がある。本研究ではRGEの解をQED, QCD結合定数およびワインバーグ角の実験データと比較した。2ループRGEと軽い質量スペクトルの敷居補正ではこれら観測量と無矛盾な大統一は実現できず、重い質量スペクトルによる敷居補正が必須であることを示した。重い質量スペクトルの敷居補正はE6対称性を破るヒッグス場の決定等、模型の構成に依存するため、本研究では現象論的に必要な重い敷居補正の大きさを評価した。結合定数の統一を実現する、模型の新粒子の質量は5TeV以上となり、LHC実験等での探索は困難であることがわかった。
(2) e+ e-コライダーにおけるレプトン・フレーバーの破れ(LFV)を検証する可能性について研究を行った。LFVを起こす4体フェルミ型相互作用を想定し、終状態が電子とミューオン、電子とタウになる場合を検討した。ミューオンやタウの、LFV崩壊過程に対する既存の実験結果より、e+ e- -> e+ \mu-過程に対する感度は既存の実験より低いことがわかった。一方、\mu-の代わりに\tau-が現れる過程については、将来実験で想定されているエネルギーやルミノシティで一定の感度があり、LFV結合定数に対する下限を与えた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
(1) 超対称E6大統一模型は超弦理論が予言する低エネルギー有効理論の一つであり、模型のゲージセクターは標準模型よりも余分にU(1)ゲージ対称性を持ち、また基本表現である27次元表現の大きさから標準模型には含まれない多数の物質場を持つなど、複雑な構造を持っている。このような模型における、標準模型を越える粒子の質量スケールの予言は模型の持つフリーパラメータの多さから困難である。本研究では2ループレベルの繰り込み群方程式と高エネルギー・スケールでゲージ結合定数が摂動領域で統一すること、という条件から、模型の詳細なパラメータにあまり依存すること無く、新粒子の質量スケールについて予言することができた。それによりこのタイプの模型の、LHC実験での探索可能性について一定の知見を得ることができた。
(2) レプトン・フレーバーの破れはニュートリノ質量の発見による、直接的な帰結であり、標準模型を越える素粒子模型の存在を示唆する現象である。従来はさまざまな動機によってレプトン・フレーバーを破る相互作用を内包する素粒子模型を考案し、模型を規定するパラメータ領域を探索する手法が主に取られていた。本研究では模型の詳細に依存しない解析方法を選んだ。レプトンと相互作用する重い新粒子があった場合、その質量がコライダーの衝突エネルギーより十分に大きければコライダー実験においてその相互作用は4体フェルミ型相互作用として扱うことができる。本研究により、将来実験で探索可能な、レプトン・フレーバーを破る結合定数の大きさを模型に依存することなく求められ、それは重いゲージボソンや新たなスカラー粒子等によるレプトン・フレーバーを破る模型のパラメータに容易に適用することができるようになった。
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今後の研究の推進方策 |
電子・陽電子衝突実験におけるレプトン・フレーバーを破る相互作用の探索可能性について引き続き調べる。前年度の研究では素過程による解析を行ったが、今後はモンテカルロ・シミュレーションを用いたイベント生成、検出器シミュレーションまで含めたより詳細な解析を行い、LFV結合定数に対する制限を求める。その結果に基づき、光子・光子衝突や電子・光子もしくはクォーク・光子衝突におけるLFV過程探索の研究へ進む前段階とする。
標準模型以外にU(1)ゲージ対称性があり、その下で標準模型粒子が電荷を持たない場合、そのU(1)ゲージ粒子は検出不能なdark photonとして振る舞うことが知られている。しかしこのdark photonは標準模型のU(1)ハイパーチャージ・ゲージボソンと運動項を通して混合する。光子・光子衝突や光子・電子(光子・クォーク)衝突過程など、光子が関連する反応過程に注目することで、このようなdark photonシナリオの検証可能性について調べる。
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次年度使用額が生じた理由 |
主に旅費としての支出が計画より少なかったが、これは研究の進行のタイミングと成果発表の場となる(出席可能な)学会等の開催時期とのズレが主な理由である。
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次年度使用額の使用計画 |
成果発表・研究打合せ等の機会を確保し、計画通り使用する予定である。
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