研究課題/領域番号 |
16K05315
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研究機関 | 金沢大学 |
研究代表者 |
久保 治輔 金沢大学, 数物科学系, 教授 (40211213)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 素粒子 / スケール不変性 / 暗黒物質 / 重力波 |
研究実績の概要 |
当研究の目的は、素粒子の標準理論に新たにhidden sectorを導入し、hidden sectorの非摂動効果によって生成されたエネルギースケールが標準理論のエネルギースケールの起源であると仮定し、標準理論のエネルギースケール、暗黒物質の質量、宇宙のバリオン数のそれぞれの起源が統一的に理解されるように標準理論の拡張を行うことである。標準理論のエネルギースケールの生成機構に対して、非可換ゲージ理論の非摂動効果に基づく二つのタイプの機構が提案されており、 hidden sectorに暗黒物質の候補になれる粒子が存在することが特徴である。さらに、このエネルギースケールの生成は初期宇宙に相転移として現れ、相転移が一次相転移の場合将来観測可能な背景重力波が生じる可能性がある。type Aにおいて、初期宇宙に起こるhidden sectorのカイラル相転移が一次相転移になるパラメータ領域を考察した。この領域では背景重力波が生成されるので、重力波スペクトルを計算し検出可能性を調べた。その結果、日本で計画が思案されているDECIGO実験によって観測可能であることが分かった。また、typeB(ボゾン対の凝縮によるスケール不変性の自発的に破れ基づく) については、hidden sectorのフレーバー対称性SU(2)をU(1)xU(1)に破ることにより、暗黒物質の対消滅モードを増やすことを見出し、それより暗黒物質の理論的予言が実験と無矛盾に存在できる領域が大幅に増えることを指摘した。 さらに、輻射補正によってニュートリノの質量が摂動two-loopのオーダー生成される模型を考察した。この模型には、安定な冷たい暗黒物質と安定な暗黒輻射が同時に存在することができ、遠方宇宙の観測結果と近傍宇宙の観測結果のの不一致を緩和できるパラタータ領域が存在すること指摘した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当研究では、素粒子の標準理論に新たにhidden sectorを導入し、hidden sectorの非摂動効果によって生成されたエネルギースケールが標準理論のエネルギースケールの起源であると仮定し、標準理論のエネルギースケール、暗黒物質の質量、宇宙のバリオン数のそれぞれの起源が統一的に理解されるように標準理論の拡張することを目指している。エネルギースケールの生成機構については、二つのタイプの非可換ゲージ理論の非摂動効果に基づく機構が提案されており、ここではそれぞれtype AとBと呼んでいる。現在まで、両タイプの模型おいて、暗黒物質に関する解析は計画通り進んでいるが、コライダー実験によるhidden sectorの検証可能性についての研究はまだ始まっていない。また、当初、電弱相転移に関する研究を深める計画であったが、hidden sectorのカイラル相転移(type A)とスケール相転移(type B)が将来観測可能な背景重力波を生成する可能性があることが分かり、現在研究の重点をこの背景重力波に移しつつある。これは、最近重力波が実際に観測されて以来、hidden sectorの相転移由来の背景重力波に大きな関心が寄せられているからである。
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今後の研究の推進方策 |
非可換ゲージ理論の非摂動効果の解析には、通常の摂動論が使えない。第一原理に基づく計算は、格子ゲージ理論で可能であるが、当研究では有効理論を使っている。type Aの(カイラル対称性の自発的破れの)有効理論はよく知られているNambu-Jona-Lasinio理論であるが、type Bの(スケール対称性の自発的破れの)有効理論は、当研究代表者が共同研究で開発したものである。背景重力波スペクトルの計算も同様、これらの有効理論を使って行っている。しかし、相転移が強い一次の場合とcrossoverの場合とで、生成される重力波の周波数が極端に異なる理由が、第一原理に基づく解析がないので、まだ分かっていない。この理由が判明しないと有効理論を使った背景重力波スペクトルの予言の正当化が難しい。今後の研究の推進方策として、有効理論の有効性に重点を移し、より精度の良い背景重力波スペクトルの予言を行うこと目指す。また、hidden sectorと標準理論sectorの結合が弱いとすると(実は弱い時に背景重力波が発生する)、hidden sectorをコライダー実験で検証するのは難しくなるが、重力波を使って検証できる可能性があることを付け足しておく。
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