研究課題/領域番号 |
16K05316
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研究機関 | 信州大学 |
研究代表者 |
奥山 和美 信州大学, 学術研究院理学系, 准教授 (70447720)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 4次元N=4超対称ゲージ理論 / 行列模型のラージN極限 / ホログラフィー / 時空のトポロジー変化 / 反対称表現のウィルソンループ |
研究実績の概要 |
平成29年度は4次元N=4超対称ゲージ理論のあるセクターの性質を記述する行列模型のラージN極限の性質についての研究を行った。この種の行列模型はホログラフィーを通じてAdS時空上の超弦理論と関係しており、超弦理論(およびM理論)の量子重力的な効果や現象を理解するために非常に重要なツールを与えてくれる。具体的には、有限温度のN=4ゲージ理論の分配関数を記述するユニタリー行列模型と、N=4ゲージ理論の反対称表現に属するウィルソンループを記述するガウス型エルミート行列模型について、そのラージN展開について詳細に解析し、2本の論文にまとめることができた。 有限温度のN=4ゲージ理論は、空間成分の場について先に積分することにより、虚時間方向のホロノミーに関するユニタリー行列模型として表すことが出来る。ラージN極限ではこの系はHagedorn転移を起こすことが知られており、それは重力側ではAdS時空からブラックホール時空へのトポロジー変化を伴う転移であると解釈される。重力側でこの転移を量子的に調べることは困難であるが、ゲージ理論側ではユニタリー行列模型の1/N展開を調べることにより古典論からの補正を系統的かつ定量的に調べることができる。本研究では、ホロノミーの3次以上の項を無視する近似のもとで自由エネルギーの1/N補正を主に数値的に調べた。また、幾つかの表現に属するホロノミーの期待値が転移温度を境にしてゼロからノンゼロになることを確かめた。これは時空のトポロジー変化の直接的な証拠を与える結果である。 反対称表現のウィルソンループを記述する行列模型はフェルミ気体の手法を用いることで系統的に調べることができる。本研究ではこの手法を用いて期待値の1/N補正を解析的に導くことに成功した。また、強結合の領域でD5ブレーンからNS5ブレーンへの記述の変更を伴う転移があることを予想した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度はM2ブレーン上の有効理論であるABJM理論の解析は一旦中断し、AdS/CFT対応で重要なもうひとつの系である4次元N=4超対称ゲージ理論の1/N補正についての解析を行った。特に、反対称表現のウィルソンループの解析においては、ABJM理論の解析で有効であったフェルミ気体の手法を用いることができ、ABJM理論で培った様々な方法の多くを適用することにより、1/N展開を系統的に調べることが出来た。また、有限温度の系を記述するユニタリー行列模型の数値解析も行い、結果を論文にまとめることができた。本年度中に学術誌に掲載することはできなかったが、ある種の位相的弦理論と関係する2次元球面上のゲージ理論の相構造についても結果をまとめ、プレプリントとしてarXivに投稿した。 このように、ゲージ理論側のある種の量を記述する行列模型のラージN展開を解析し、そのままでは直接調べることが難しい超弦理論およびM理論の量子重力効果や非摂動的な効果を知ることは今後ますます重要になってくると予想される。本年度はそのような研究の具体例をいくつか示すことができたという意味で、おおむね順調に進展していると判断している。
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今後の研究の推進方策 |
今後も行列模型のラージN展開から超弦理論およびM理論の非摂動効果を探る研究を継続する予定である。 まず、ABJM理論のウィルソンループのフェルミ気体の手法を用いた研究を更に推し進める。1/2BPSや1/6BPSのウィルソンループについては既にフェルミ気体による解析がなされており、非摂動効果についてはある程度の理解が進んでいる。しかし、それより超対称性が低い「緯度ウィルソンループ」と呼ばれる1/12BPSウィルソンループについては、最近フェルミ気体による記述が予想されたばかりでその性質はまだ詳細には知られていない。そこで、緯度ウィルソンループのフェルミ気体による記述を確立し、1/N展開の性質を詳細に調べることを計画している。 次に、ある種の4次元ブラックホールの微視的状態数の数え上げと関連していると考えられている2次元トーラス上のゲージ理論のラージN展開を調べることを計画している。重力側ではトンネル効果により時空がいくつかのベビー宇宙に分裂していくという予想がある。この現象が量子重力において本当に起こるのかを、2次元ゲージ理論の1/N展開およびそこからの非摂動的な補正を調べることにより明らかにすることを目指す。このような系を具体的に調べることにより、量子重力理論における時空のトポロジー変化に対する深い理解が得られると期待している。
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次年度使用額が生じた理由 |
平成29年度は当初予定していた国際会議への参加が出来なくなり、外国旅費として計画していた予算を使用しなかった。そのため、その金額分の次年度使用額が生じた。次年度使用額は、平成30年度請求額と合わせて、次の目的に使用する。 平成30年度は、国際会議へ参加出来る見込みであり、そのための外国旅費の支出を予定している。また、共同研究者との研究打ち合わせのための旅費と謝金、国内での研究会で研究成果を発表するための旅費、数値計算をより高速化・効率化するためのコンピューター機器やソフトウェアの購入のための物品費、として予算を使用することを計画している。
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