今年度は2次元ヤンミルズ理論の分配関数とガウス型ランダム行列模型の相関関数について研究を行った。 まず、2次元球面上のq変形したヤンミルズ理論に位相的項が入った場合の分配関数についてインスタントンの寄与を調べ、複雑な相転移の構造があることを明らかにした。このような構造は2000年代に予想されていたが、今回分配関数の厳密な表式を用いて具体的に相転移を調べることに成功した。 次に、2次元トーラス上のヤンミルズ理論の1/N展開に対する非摂動的な補正をリサージェンスの手法を用いて解析した。この理論はある種のブラックホールの状態数の数え上げと関係すると考えられ、そこにはベビー宇宙の生成の寄与が非摂動的な補正として現れると予想されていた。今回1/N展開を60次まで計算しそこから非摂動的な補正を読み取ったところ、ベビー宇宙の生成という解釈とは矛盾する結果が得られた。この結果から2次元ヤンミルズの分配関数にはベビー宇宙の寄与は入っていないと予想される。これはホログラフィーにおける時空の足し上げ規則に対する重要なヒントを与えるものである。 今年度の後半は、ガウス型行列模型の相関関数の研究を主に行った。4次元超対称ゲージ理論のウィルソンループの期待値はガウス型行列模型で書けるが、表現が複雑になると閉じた形で期待値を求めることが困難であるという問題があった。今回、トレースの積で表される演算子の相関関数については期待値を系統的に計算する方法を発見し、位相的漸化式から求めた1/N展開の結果を正しく再現することを確かめた。 また、カオス系を特徴付けるスペクトル形状因子について、ガウス型行列模型の場合に閉じた表式を与え、ランプとプラトーと呼ばれる構造について詳しく調べた。特に、ランプからプラトーへの移行は、インスタントンによって引き起こされる相転移であるという描像が得られた。
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