研究実績の概要 |
本年度は、QCDによる光-光弾性散乱振幅を介してミュー粒子の異常磁気能率に誘導される寄与(以下、HLbLの寄与と参照)に対する格子QCDシミュレーションによる予言に関し、主に系統誤差に関する研究に重点を置いて推進してきた。主たる系統誤差としては、シミュレーションに使用するQCD配位の物理サイズが有限であることに由来する有限体積効果と、配位の格子間隔が有限であることに由来する離散化誤差がある。最終的には無限体積極限かつ格子間隔0の極限での値が、HLbLの寄与に対する予言となる。 HLbLの寄与としては、connected型ファインマン図からの寄与と、6つのdisconnected diagramのうち、u, d, s-クォークの質量が縮退した極限で唯一残る(2,2)-型のファインマン図からの寄与をこれまで計算することができた。系統誤差に関する研究はこれら2つの寄与に限定して調べてきた。 QCD配位のとしては、物理体積は共通であるが格子間隔の異なる48^3, 64^3(3次元空間の格子数を表す)を含む、8つの異なる物理パラメータのサンプルを用いて調べている。 また、ミュー粒子・光子の部分に関しても2つの異なる式を用いて計算を行なってきた。一つは、この部分もクォーク・グルーオンからなるQCDと同じ有限体積・格子間隔の時空に存在するとした場合のもの、もう一つは、ミュー粒子・光子が無限体積に存在するとして得られる式である。現時点では、両者の間で互いに整合性のある無限体積極限・格子間隔0極限の結果を得るためには、統計量をさらに増やすことが分かっており、再測定・再解析に向けてQCD配位のサンプル数を増やす計算を進めている。
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今後の研究の推進方策 |
QCD+QED)-シミュレーションによるアプローチを本課題で試みることは断念する。(QCD+QED)-シミュレーションの方法は、connected型ファインマン図、6個のdisconnected型のファインマン図からの寄与、これらすべてを一気に計算するものであった。そこで、connected型ファインマン図からの寄与と3つのdisconnected型ファインマン図からの寄与に限定した系統誤差の研究を最優先に取り組むことにする。Disconnected型ファインマン図としては、(2,2)に加えて(3,1), (1,3)という2つに集中して取り組む。もしも、(A) (3,1), (1,3) における u-クォークのみによる寄与の大きさが、(2,2) における u-クォークのみによる寄与の大きさと同程度であり、(B) u-, d-, s-クォークからの(2,2)に対する (3,1), (1,3)の寄与の大きさが非常に小さいこと、が分かれば、残る3つのdisconnected型ファインマン図からの寄与はさらに小さい可能性が高くなるためである。他方、(A)が満たされなかった場合には、他のdisconnected型ファインマン図からの寄与の大きさも直接的な計算で確認せざるを得ないため、その点は本課題で問うことは断念する。 無限体積極限・連続極限に関しては、connected型ファインマン図と(2,2)-disconnected型ファインマン図からの寄与に限定し、48^3, 64^3 のQCD配位を追加する計算を早期に終えた後、ミュー粒子・光子に関する2種類の方法によって測定行し直し、その解析結果を論文としてまとめる。
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