研究課題/領域番号 |
16K05317
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研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
早川 雅司 名古屋大学, 理学研究科, 准教授 (20270556)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | ミュー粒子異常磁気能率 / QCD / 格子ゲージ理論 |
研究実績の概要 |
本年度はミュー粒子の異常磁気能率におけるHadronic Light-by-Light scattering (HLbL)の寄与に対して格子QCDシミュレーションによる最初の連続極限・無限体積極限の結果を得ることに注力してきた。より詳しくは、HLbLの寄与におけるconnected Feynman図からの寄与と、6種類のdisconnected Feynman図のうち1種類のFeynman図(ストレンジ・クォーク、ダウン・クォーク、アップ・クォークの質量が同じ極限で唯一残るdisconnected Feynman図)からの寄与について、様々な格子間隔・物理体積の格子QCDシミュレーションを引き続き遂行し、得られたデータに基づき連続極限・無限体積極限を調べた。Connected Feynamn図からの寄与、disconnected Feynman図からの寄与の絶対値の各々は、格子間隔の減少及び物理体積の増加と共に増加するが、相対的な符号の異なるこれらの2つの和の物理パラメータ依存性は、単独のそれに比べて非常に小さいことが分かった。2つの寄与が相殺し合うことで和が小さくなる都合上、値に対する相対的な統計誤差は大きい。この誤差の範囲でではあるが、中心値は現象的な方法で得られてきた値に非常に近いということが分かった。これらの成果を論文としてとりまとめてPhysical Review Letterに投稿した。Physical Review Letterの審査基準は他の物理系学術雑誌に比べて格段に厳しく、年度内にacceptされずに最終成果報告に含められないこともあって、本事業の期間延長を行なった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
研究実績の概要で述べたように、ミュー粒子の異常磁気能率におけるHadronic light-by-light scattering (HLbL)の寄与に関しては、格子QCDシミュレーションによる最初の連続極限・無限体積極限の結果を得て成果を公表することができた。これまでの研究成果を通じてHLbLの寄与に関して分かった最も重要な点は、connected Feynman図からの寄与に比べてdisconnected Feynman図からの寄与は決して無視できるものではなく、むしろ同程度に重要で逆の符号でHLbLの寄与に効く、という点である。この点は現象論的に得られているHLbLの寄与の定性的な面と矛盾していない。他方で、2種類のFeynman図からの寄与が互いに相殺するように働いているため、現時点での2つの和における相対的統計誤差は予想を大幅に上回ることになった。この点を克服する上で十分な統計量まで計算を継続することは最終年度の1年では難しいと思われる。 電弱-ハドロンの寄与に関しては、QCD以外の部分(ミュー粒子+光子+Zボゾン)を計算する数値プログラムの作成を終えた。空間方向の一方向の格子点数が32の光子でクォークconnected Feynman図による電弱-ハドロンへの寄与に関する予備的計算を行った。第一段階として、current演算子としては保存currentではなく局所currentを用い、ダウン・クォークのループによる寄与とストレンジ・クォークのループによる寄与の差に相当する量を対象にしている。
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今後の研究の推進方策 |
ミュー粒子の異常磁気能率におけるHadronic light-by-light scattering (HLbL)の寄与はconnected Feynman図からの寄与と6種類のdisconnected Feynman図からの寄与からなる。これらdisconnected Feynman図からの寄与の5種類はいづれもアップ・ダウン・ストレンジクォークの質量を等しくおくと0となる。これまでのところconnected Feynman図からの寄与と、クォークの質量が縮退した極限で消えないただ一つのdisconnected Feynman図からの寄与に対して連続極限・無限体積極限を調べてきた。実際のところはストレンジクォークとアップ・ダウンクォークの質量は大きく異なる。よって、残り5種類のdisconnected Feynman図からの寄与がこれまでに計算した寄与に比べて小さいか否かを実際の計算を通して確認する必要がある。まずは、5種類のうち、電磁相互作用をするクォークループがちょうど2個の2種類に関して、各空間方向の格子点数が24, 32の格子で予備的な計算を行ってこの点を確認する。 電弱-ハドロンの寄与に関しては、進捗状況で述べたような計算によって、第2世代(チャーム・ストレンジクォークとミュー粒子)からの寄与については現象論的な計算がおおむね正しいと仮定した場合の第1世代(アップ・ダウンクォークと電子)と第2世代の寄与の合計が決定できる。他方で、第1世代の寄与単独を求めるため、QCD相互作用する粒子のループとしない粒子のループの間でのアノマリー相殺が実現するには、保存currentによる計算が最低限必要となると思われる。これら二つのアプローチによって電弱-ハドロンの寄与におけるconnected Feynman図からの寄与を求める。
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次年度使用額が生じた理由 |
新型コロナウィルス蔓延の兆候が現れたため、3月中旬に計画していた出張をした。また、次年度に開催されるworkshop参加のための旅費に残しておいた。
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