研究課題/領域番号 |
16K05319
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研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
戸部 和弘 名古屋大学, 理学研究科, 准教授 (20451510)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | フレーバー物理 / タウ粒子崩壊 |
研究実績の概要 |
ミュー粒子異常磁気能率(muon g-2)の実験値と標準模型の理論値との食い違い、及びLarge Hadron Collider実験のCMSグループが報告したヒッグス粒子のh→μτ崩壊の事象超過、を同時に説明できる標準模型を超える理論としてtwo Higgs doublet model(2HDM)を研究した。これは標準模型にさらにもう一つヒッグス二重項を加える簡単な拡張模型である。特に、muon g-2とh→μτのアノマリーを同時に説明するようなシナリオで、タウ粒子のミュー粒子、ニュートリノ、反ニュートリノへの崩壊現象τ→μννを詳しく調べ、この崩壊を特徴付けるいわゆるミッシェルパラメーターに0.01%-0.1%程度の補正が可能なことを明らかにした。この補正はμーτのフレーバーの破れの為に非常に特徴的であることがわかり、将来のB-ファクトリー実験などでこのようなタウ粒子の崩壊現象が精密に測定されるようならば、このようなシナリオの重要な検証がなされる可能性があることを指摘した。またこのタウ粒子崩壊のミッシェルパラメーターへの補正の大きさは、muon g-2のこの模型の寄与とある程度の相関があることがわかり、例えCMS実験が報告しているh→μτの事象超過が実際はもっと小さかったとしても、muon g-2のアノマリーがこの模型によるものだとしたら、このタウ粒子崩壊への補正は大きくなり得ることがわかった。
またこのような2HDMにおけるフレーバーの破れのクォークセクターでの影響を調べた。特に、B中間子がD (or D*), l(=e, μ, τ), ニュートリノへ崩壊する過程で標準模型の予言値からのズレが報告されており、2HDMでどのくらいのズレが可能なのかの詳しい解析を行なっている。次年度には報告できる予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
2016年度は、muon g-2のアノマリーと、h→μτで報告されている事象の超過を同時に説明できる可能性のあるtwo Higgs doublet model (2HDM)を計画どうりに解析した。特に、μーτフレーバーの破れのある場合の、タウ粒子の崩壊のミッシェルパラメーターへの補正が非常に特徴的であることが分かり、タウ粒子崩壊の精密測定が将来の実験で実現されればこのシナリオを検証できることがわかり、新たな知見を得ることができた。
また計画していたように、2HDMでのクォークセクターでのフレーバーの破れの現象の研究にも着手した。このように研究計画はおおむね順調に進展していると言える。
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今後の研究の推進方策 |
2017年度は計画していたように、クォークセクターでのフレーバーの破れの現象について研究したい。まず、今まで研究してきた2HDMでB物理への影響を調べる予定である。特に、現在の実験的な状況も、B物理に関しては興味深い。LHC実験やBファクトリー実験などの結果からb→sフレーバー変換やb→cフレーバー変換を起こす現象で標準模型との食い違いが指摘されている。よって2017年度の研究としては、まず2HDMではこのような現象にどのくらいの影響が期待されるのか、またさらに研究を発展させて、このような食い違いを説明する為にはどのような新物理がいいのか、などと研究を進展させて行きたい。
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次年度使用額が生じた理由 |
計画していた以上に関係する国内の研究会などが多く、それに参加するために10万円の前倒し支払い請求を行った。その10万円を全て研究会旅費などに使用する必要はなかったので、残りの1万数千円は次年度に使用することにした。
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次年度使用額の使用計画 |
前倒し支払い請求と合わせて、この次年度使用額は、旅費などの微調整のために生じたものなので、今年度の旅費などで微調整をして使用することで、当初の研究計画を計画通り遂行する上で、特に問題はないと考える。
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