研究課題/領域番号 |
16K05321
|
研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
福間 将文 京都大学, 理学研究科, 准教授 (10252529)
|
研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2021-03-31
|
キーワード | 膜の量子論 / ランダム体積 / 行列模型 / 超弦理論 / 非平衡熱力学 / エントロピー / ブラックホール / モンテカルロ |
研究実績の概要 |
【膜の量子論】超弦理論の一形態であるM理論は「膜」を基本的力学自由度とし、膜の運動は時空中でランダム体積を作る。我々は、膜のランダム体積を3角形とヒンジの組み合わせとして記述する「triangle-hinge(TH)模型」を提唱した。これは行列を力学変数とするため、連続極限の取り方などが解析的に決定できる可能性がある。今年度はTH模型の一番簡単な場合について数値計算を行い、3次相転移点が存在することを確認した。なお、配位を4面体分割に制限するには、複素係数の作用を扱う必要が出てくるが、これに伴う「符号問題」は、次の研究により解決した。
【符号問題とLefschetz thimbleとparallel tempering】一般に複素作用の数値計算では、近接した配位のボルツマン因子が熱力学極限で激しく相殺するため、正確な数値結果を得るには膨大な計算量が必要となる。この「符号問題」の解決法として、経路積分の積分領域を複数のLefschetz thimbleのセットに置き換える方法が提案された。しかしこの手法では、異なるLefschetz thimble間に大きなポテンシャル障壁が存在するため、実際のモンテカルロ計算では正しいサンプリングが行えないという別の困難が生じる。我々は積分領域の変形パラメーターを焼き戻しパラメーターとするアルゴリズムを新たに提唱し、実際に機能することをいくつかの具体例で確認した。これは「符号問題」と「thimble間の移動が困難な問題」を同時に解決する初のアルゴリズムであり、汎用性も高い。
【定常非平衡熱力学とブラックホール】質量の異なるブラックホールをトーラス上の力学的平衡な位置に置いた時の重力解を構成し、その定常非平衡熱力学的性質を調べた。とくにこの重力解が、以前に我々が与えたエントロピー汎関数を用いて簡明に記述できる可能性を調べた。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
◆膜の量子論 我々が導入した「triangle-hinge(TH)模型」に対して数値計算を行い、3次相転移点の存在を確認した。これにより、量子重力理論をTH模型を用いた膜の量子論として定義できる可能性が高まったため。また、複素数値の作用を用いた数値計算における符号問題に対しても、必要なすべてのLefschetz thimbleからの寄与が取り入れられるアルゴリズムを開発し、その結果、TH模型における配位を4面体分割に制限するために作用を複素数値にした場合でも、数値計算が遂行できる目途が立ったため。
◆定常非平衡統計熱力学とブラックホール 一般相対論の解をエントロピー汎関数を用いて解釈する方法論が進展し、これにより定常平衡に相当しない重力解に対しても非平衡統計熱力学による解析が可能となることが分かってきたため。
|
今後の研究の推進方策 |
「重力の定常非平衡熱力学」の一般論をさらに進展させた後、時間依存する非平衡熱力学への拡張を行う。これと並行して、「TH模型」の研究を解析的・数値的の両方の側面から進展させ、超弦理論・M理論の新しい定式化を行う。また、符号問題など、数値計算における諸問題の解決方法をさらに見つけていく。
|
次年度使用額が生じた理由 |
数式処理ソフトウェアのアップデートを次年度に行う予定で、その予算を確保するため。
|
次年度使用額の使用計画 |
数式処理ソフトウェアのアップデートに使用する予定。
|