研究課題/領域番号 |
16K05322
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
川合 光 京都大学, 理学研究科, 教授 (80211176)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 標準模型 / 砂漠 / 弦理論 / ヒグスポテンシャル / 自然性 / ヒグスインフレーション / 最大エントロピー原理 / IIB行列模型 |
研究実績の概要 |
当研究者は、この数年の研究により、標準模型の結合定数はプランクスケールまで発散せず、それどころか、ヒグスポテンシャルはストリングスケール付近で、ほとんど平坦になることを見出した。これは、標準模型がストリングスケールで、そのまま弦理論につながっている可能性が高いことを示唆している。本研究は、そのような可能性を、自然性の観点から分析し、弦理論のダイナミクスを解明しようというものである。
1)そのような平坦性が、弦理論の立場からみた場合、どのようにして生じうるかについて考察した。これは、宇宙項やヒグス質量の自然性問題と同レベルの問題であり、通常の場の理論や摂動論敵弦理論の立場からは説明できないと思われる。しかしながら、量子重力や弦理論の非摂動的なダイナミクスを取り入れることにより手がかりが得られる。実際、時空のトポロジーの量子ゆらぎを考慮すると、自然性やポテンシャルの平坦性を説明できる可能性があることがわかる。その具体的な模型をいくつか構成し、その性質を解析した。 2)ヒグスポテンシャルの平坦性は、宇宙初期のインフレーションがヒグス場によって引き起こされた可能性を強く示唆しているのみならず、多くの検証可能な予言もえられる。例えば、暗黒物質として最も単純なヒグスポータル型のものを仮定すると、ヒグスインフレーションが起きるための必要条件として、暗黒物質の質量と、宇宙背景放射揺らぎのテンソル対スカラー比の間に強い条件が得られ、しかもそれらが、今後10年以内の実験で検証できる可能性を示した。 3)このような考察を一般化すると、「ストリングスケー以下の波長の揺らぎを積分して得られる有効理論もつパラメーターは、宇宙の最終のエントロピーを最大にするように選ばれている。」という最大エントロピー原理が得られる、ⅡB行列模型による時空の創発を調べ、上記のような有効理論が、自然に得られる可能性を議論した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当該年度は、ヒグスインフレーションおよび最大エントロピー原理の検証可能性に関して、よい結果が得られた。行列模型の低エネルギー有効理論の解析に関しては、その本質を表わす量子力学的模型の雛形というべきものが得られたので、今後解析を進めていく。
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今後の研究の推進方策 |
今後も、素粒子論・宇宙論を問わず、現象論や実験等の多くの専門家と議論をつづけ、ヒグスポテンシャルの平坦性は本当に成り立っているか、最大エントロピー原理は本当に第一原理から導けるか、等の本質的問題を解明してく所存である。
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次年度使用額が生じた理由 |
初年度(2016年度)の交付額では、数値計算用の計算機やソフト等、想定していたものを購入できなかったため、交付金の一部を前年度(2017年度)に繰り越し、購入するつもりであった。しかし、前年度は海外出張等のための出費が多かったため、やはり購入するにいたらなかった。2018年度は、これらの機材を購入し、数値計算を援用した研究に着手したい。
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