基本的な問は「標準模型は本当に弦理論の真空か」ということである。これは長年の問題であるが、この十年の実験・観測結果は、bottom up と top down 的なアプローチが大変近いものであることを示している。いいかえると、電弱スケールとプランクスケールの間にある「小さなギャップ」を埋めることで、両者がつながる可能性がある。この「小さなギャップ」としては、暗黒物質、バリオン数生成、宇宙初期のインフレーションなど、場の理論内で解決できるものに加えて、量子重力・自然性問題など、場の理論の考え方自体の変更も考慮する必要がある。 当研究者は長年、“行列模型による時空と物質の創発”と、“自然性に対する新しい理解の試み”の2つの視野を融合させることを考えている。2021年度は、以下のような問題を有機的に結び付けて、上記の「小さなギャップ」の全体像の解明を試みた。 ⅰ)Higgs場の質量および自己結合定数の起源をプランクスケールの物理から解明する。また、その観点からHiggsインフレーションを調べ、プランクスケールに近いエネルギー領域の解明を目指す。 ⅱ)弦理論・行列模型から帰結されるマルティバースを解析し、低エネルギー有効理論としての場の量子論がどのように修正されるべきかを議論し、自然性問題の解明を目指す。 ⅲ)ブラックホールの時間発展を形成から蒸発まで、場の理論の第1原理から解析し、重力の量子論と古典論の本質的な違いを解明する。
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